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ラドー、カーヴィーな80年代の名作であるアナトムの40周年記念モデルを発表。

数々のユニークなシェイプの腕時計にセラミックを採用し、“マスター・オブ・マテリアル”の異名を持つラドーが、マイアミで80年代に活躍していた腕時計の復活を発表した。その名もアナトムである。

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 2023年に蘇ったカーブを描くレクタンギュラーウォッチは、1983年に発表された初代アナトムにオマージュを捧げながらも、現代のラドーのデザインコードを用いることでまったく新しいバリエーションとして生み出された。私はこの発表のためにマイアミを訪れ、ブランドのCEOであるエイドリアン・ボシャール(エイドリアン・ボシャール)と少し話をしたのち、アナトムの遺産についてもう少し深く掘り下げる機会を得た。前日の夜に行われた小さなイベントで、彼は80年代の当時のアナトムを取り出し、間もなく発表される新作について簡単に語った。ブレスレットにツートンカラーのを乗せた、とてもクールで(文句なく)小さな時計だ。

 アナトムがいかに特別なモデルであったかは(ヴィンテージウォッチを見れば一目瞭然だが)、カーブしたケースと凸型のサファイアクリスタルが雄弁に語ってくれる。そして、ケースからインダストリアルなブレスレットへとシームレスにつながるデザイン。パッケージ全体がまさにラドーを象徴しており、モダンな時計製造に向けられたブランドの情熱が表現されている。

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 しかし、1983年に発表されたアナトムでさえも、同ブランドが築き上げてきたレクタンギュラーウォッチの伝統を受け継ぐモデルである。1960年代のマンハッタンから80年代のダイヤスター エグゼクティブまで、アナトムの誕生には20年以上の準備期間のようなものがあった。アナトムの発売からも、ラドーはシントラ、セラミカ、インテグラル、そして2020年のトゥルースクエアに至るまで、長年にわたってこのケースシェイプに深い愛情を注ぎ続けてきた。

 さて、2020年はブランドにとって重要な意味を持つ。というのも、ボシャールが(サーチナでの輝かしい在任期間を経て)CEOに就任した年だからだ。先日、ボシャールはラドーのプロダクトチームとの初めてのミーティングについて少し話をしてくれた。その時に彼は、ラドーが将来リリースするモデルのひとつとしてアナトムに照準を定めたのだという。かつてのアナトムはスティール製だったが、このモデルの基本方針は、ブランドのモダンなアイデンティティを尊重しつつも、素材にセラミックを採用するというものであった。このシェイプとフォルムを持つ時計をセラミックで作るのは、かなり困難であったことは想像に難くない。

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 そして今日、初代ダイヤスター アナトムの発表から40年を記念して、セラミック製の本モデルが発表された。この時計は、素材に熟達したブランドが生み出した最先端の進化であり、これまでにない新たな形で過去へのオマージュを表現している。過去との直接的なつながりにこだわるのではなく、バックミラーを覗いてウインクしながら、正真正銘のヘリテージを備えた真のモダンウォッチを創造することに重きを置いているのである。

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 オリジナルのダイヤスター アナトムから、現代的なトレンドに合わせて変更された点として、まずケースサイズが幅28mmから32.5mmに拡大されたことが挙げられる。ひと回り大きくなったものの、まだまだ控えめなサイズだ。ベゼルはマットブラックのセラミックだが、全体的な設計はシリンダー型のサファイアクリスタルと同じ曲線をとっている。

 オリジナルモデルではダイヤルに水平方向のストライプが施され、ブレスレットのラインと調和していた。今回の新作では、セラミック製ではなくラバーのストラップが採用されている(もっとも、このモデル用のセラミック製ブレスレットも製作中であることは間違いない)。ダイヤルは水平方向にサテン仕上げが施されており、ブルー、コニャック、グリーンの3色のスモーク加工が施されている。そして12時位置には、ラドーのシグネチャーであるアンカーが配されている(オリジナルには見られなかったものだ)。

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 ケースの全体的な構成として、ベゼルトップは前述のマットセラミック、ミッドケースはブラックPVDスティール製となっており、そしてスティールのスケルトンケースバックからはアナトムが1983年に搭載していたクオーツキャリバーとは異なる自動巻きムーブメントを見ることができる。このムーブメントは6時位置にデイト窓を備え、72時間のパワーリザーブを誇るラドーの自動巻きキャリバーR766である。

 アナトムのローンチ時に発表された3色のスタンダードカラーに加え、ラドーはブラックラッカー仕上げのポリッシュダイヤルと、11個のバゲットダイヤモンドからなるインデックス、そしてブラックダイヤルを背景にロジウムカラーのムービングアンカーモチーフを配した40本の特別限定モデルであるJubilé (日本での展開は未定)も発表する。

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 さて、この発表について私はどう思っているだろうか? デザインと美観という点では私の好みとちょっと違うかもしれないが、これはこれで素晴らしい。1983年のバージョンを目にし、デザインの歴史を理解したことで、40周年記念にフルモダンの外観を採用したブランドの確固たる意志に感銘を受けた。正直なところ、ラドーについて考えるときに頭に浮かぶのは次の3つの要素だ。キャプテン クック、スクエア、そしてセラミック。この3つのうちふたつは、今作でもカバーされている。

 私は昔から湾曲したレクタンギュラーケースが好きだし、この新しいアナトムは1980年代のオリジナルに必要以上に引っ張られることなく、21世紀らしいモダンなデザインを完璧に表現していると思う。この時計のオールメタル仕様を製作するのは簡単だっただろうが、今日の時計市場にはすでに多くの類似品が出回っている。

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 ラバーストラップがマットなセラミックケースとどのようにマッチするのか、腕につけて確かめてみるのが楽しみだ。着用感、視認性、そして総合的な感想については、近いうちにHands-Onで報告したいと思う。以上、マイアミより。

基本情報
ブランド: ラドー(Rado)
モデル名: アナトム(Anatom)
型番: R10202319(グリーン)、R10202209(ブルー)、R10202309(コニャック)

直径: 32.5mm(縦46.3mm、厚さ11.3mm)
ケース素材: マットブラックのハイテクセラミック製ベゼル、ブラックPVD加工を施したサンドブラスト仕上げのステンレススティール製ミドルパーツ、マットブラックのハイテクセラミック製リューズ、ステンレススティール製ケースバック、サファイアクリスタルのシースルーバック
文字盤色: ブラックにグリーン、ブルー、コニャックのグラデーション
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ラバーストラップ

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ムーブメント情報
キャリバー: ラドー キャリバーR766
機能: 時・分・秒表示、デイト表示
パワーリザーブ: 72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 21

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価格 & 発売時期
価格: 52万9100円(税込)
発売時期: HODINKEE Shopにて購入可能(日本では2024年上旬に発売)
限定: Jubiléのみ40本限定(Jubiléは日本での発売は未定)

カルティエから発表された新作はデザイン的に秀でたものが多かった。

モザイク模様のダイヤルを持ったタンクや現代解釈を経て待望の復活を遂げたタンク ノルマル。同社としても初めてストーンインデックスを用いたサントス デュモンのXLモデル、僕もその栄冠を手にしたタンク サントレなどなど…、どれを選んでも近年のカルティエを体現するアイコニックモデルたちが揃っている。

 それらを抑えて、個人的に最も意欲的に映った時計は、実はサントス デュモンのスケルトンモデルだった。そう、あのマイクロローターを備えた1本だ。カルティエは、近年増えているスケルトンウォッチの先鞭をつけたメゾンであることはかつて執筆した記事で述べたが、ムーブメントまで含めたデザインという意味で本作は抜きん出ている。それだけに、実際につける際にその個性をうまくなじませるにはどうしたらよいか。もちろん、何も考えずにつけても素敵なのだが、本人の個性とミックスさせてより輝かせる3つのスタイルをスタイリストの石川英治さんとともに考えてみた。

1 ブラウントーンのコートルック

ダブル ラグランコート22万円、ニット15万4000円、パンツ5万5000円(すべてリングヂャケット)、シューズ(スタイリスト私物)

1つめはこのシーズンらしいスタイリング。このコートルックでテーマとしたのは、SS素材でソリッドな印象の時計とネイビーストラップをフィーチャーしつつもなじむような、背景となるコーディネートだ。タートルネックにレザーベルトの時計は好相性の組み合わせだが、敢えて個性を加えるならハイゲージではなくミドルゲージの少し織り目の荒いニットを選ぶこと。上品なクロコレザーのストラップとギャップが生まれる上、ざっくりとしたニットの質感が個性的なスケルトンダイヤルを悪目立ちさせることなく調和が取れる。

 さて、このニットを軸にしながら、その他のアイテムは若干質感をずらして品よくまとめすぎないようにしたい。洒落て見えるカギは、「本人らしく」「敢えて選んでいるか」どうかなので、例えばスーツのように上下あつらえたような印象になるアイテムを選ぶと、見る人の想像を超えることはなくフィックスされたイメージどおりのスタイリングになることがほとんどだ(ビジネスやフォーマルはこのイメージをしっかり踏襲するのが正解だ)。


 このルックの場合、ミドルゲージのニットにダークブラウンのウールスラックスを合わせ、コートには柔らかなドレープが現れ、ほんのり光沢感を放つウール×シルクの素材をセレクト。それぞれ若干素材感をずらしながら、ベージュ・ブラウン系のトーンでまとめている。

 さらに工夫するとすれば足元だが、同じ色味ながら敢えて少しラギッドなブーツを選択している。シューズにボリュームをもたせるのがいまのトレンドでもあるので旬度をプラスする意図があるのだが、もし手持ちでないようなら同系色のローファーなどに素材感や色味のあるソックスを合わせてもいいだろう。

2 カジュアルダウンしたセットアップコーデ

スーツ25万3000円、ニット4万2900円(すべてリングヂャケット)、キャップ、シューズ(スタイリスト私物)

9mm厚と非常に薄型のサントス デュモンはスーツスタイルにもよく馴染む。ただ、タイドアップしたビジネススタイルというよりは、より寛いだ印象がこの時計の雰囲気にはマッチするだろう。このルックではニット素材のロングポロシャツと少しチャンキーなローファーでカジュアルダウンのベースを整えた。さらに、パリジャンなどの海外スナップを思わせるアイテムとして、キャップを加えることで時計の個性に負けないテイストをプラスしている。

「いくらなんでもスーツにキャップ…?」こういう声が聞こえてきそうだ。もちろん、これは上級テクニックで、ボリュームのあるシューズとバランスを取ってキャップというカジュアルなアイテムを加えた結果だったりする(それとは別に、旬なMoMAとのコラボヤンキースキャップというのもポイント)。より取り入れやすいテイストだと、ハイカットスニーカーにタイトなニットビーニーとかでもいいかもしれない。


 1つ、外してはいけないのがスーツのセレクト。このリングヂャケットのグレースーツは段返りの3ボタン、かつパッチポケットというディテールが堅過ぎずに程よくカジュアルだ。もちろんタイドアップして使えるスーツではあるものの、上下バラして使えるようなセットアップに近いデザインが特徴だ。少し表面がざらついた風合いのウール・コットン素材がその個性の正体だ。なお、この手のスーツをカジュアルダウンする場合、パンツの裾は基本的にはダブルの仕立てにしておけば間違いがない。

 グレーとネイビーは鉄板のマッチングを誇るため(このサントス デュモン自体がそうであるように)、時計とスーツ、キャップまで含めたカラーコーディネートを、グレーをベースにネイビーをアクセントとしてまとめたルックとなった。

3 アップデートしたレザースタイル

レザージャケット35万2000円、シャツ4万2900円、パンツ6万6000円、タイ3万3000円(すべてリングヂャケット)、スニーカー(スタイリスト私物)

レザージャケットとグレースラックスというコーディネートは個人的に好きで、ほぼ主観によって今回の3ルックに加えさせてもらった。ひと昔前は、かなりタイトなダブル仕立てのレザーライダースにテーパードの効いたグレースラックスを合わせるのが定番だったが、昨今のリラックスした雰囲気を取り入れて少しアップデートをしている。

 シングルタイプのレザージャケットは、上品なラムレザー製。リングヂャケットがナポリの工房で仕立てたもので、ハンド風のステッチが同色のマットな質感のレザーに程よく表情を加えている。このジャケットが時計好きに刺さるのは、カフスの裏にシープスエードが配されていて、時計に干渉する際にも安心感があるところにもあるかなと思う。


サントス デュモン
Ref.CRWHSA0032 469万9200円(税込) SSケース、LMサイズ(縦43.5×横31.4mm)、8m厚。自動巻きCal.9629 MC搭載、2万5200振動/時、約46時間パワーリザーブ。日常生活防水。

 グレースラックスはというと、ルックのように若干足元に“溜める”ようにして履くのがいまの気分だ。モデルはキャンバススニーカーに合わせつつ、2クッションと少しほど溜めているが、一般的な体型の方であれば1.5クッションくらいにして、なおシューズも少しボリュームのあるものを選ぶとバランスが取りやすいと思う。

 なお、さらなるテイストとしては、少し緩く結んだタイで抜け感をプラスしているが、正直さじ加減が難しいと思うので、同色のタートルネックや少しオーバーサイズのシャツなどに置き換えてもこなれて見えるだろう。細部までデザインが入ったサントス デュモンのような時計をよりよく見せるならば、やはり「敢えて」サイズ感や素材感を選びぬいたようなテイストを加えることを試してみたい。

タグ・ホイヤーが、ソーラーパワーで動く“ソーラーグラフ”の最新モデルを発表した。

2022年のアクアレーサー 200 ソーラーグラフ 40mmの発売と、2023年の魅力あふれるチタン製40mmモデルの発売に続き、タグ・ホイヤーはLVMHウォッチウィークで中型サイズのアクアレーサー プロフェッショナル 200 ソーラーグラフを5バージョン発表した。いずれもスティール製ケースで、それにマッチするブレスレットがセットされている。

 ケース径34mm、厚さ9.7mm、ラグからラグまでが40.6mmの新しいソーラーグラフは、クラシックなブルー、タグの“ポーラーブルー”(海の泡のようなカラーリング)、マザー オブ パールの文字盤を備えた3つのバージョンから選ぶことができる。MOPのトリオには、従来のロジウムインデックス、ダイヤモンドインデックス、ダイヤモンドインデックスとダイヤモンドベゼルを備えたモデルがある。

Tag heuer solargraph 34mm
 従来のソーラーグラフ 40mmと同様に、新しい34mmモデルには、ラ・ジュー・ペレが開発したタグ・ホイヤー独自のソーラームーブメントを採用。このムーブメントはTH50-01と呼ばれ、3針の時刻と日付表示、最大10カ月のパワーリザーブを備えている。アクアレーサーの名にふさわしく、サファイアクリスタル風防、逆回転防止ベゼル、ねじ込み式リューズ、200mの防水性を確保している。

 価格は、ブルー&ポーラーブルーダイヤルともに26万9500円。ソーラーグラフ初となるマザー オブ パールだと価格が上がり、従来のダイヤルが29万7000円だ。ダイヤモンドも欲しいって? ダイヤモンドがインデックスにセットされたものは37万4000円、そこにダイヤモンドベゼルを追加すると62万7000円(すべて税込)になる。

我々の考え
34mmは自身の手首には少し小さいと思うかもしれないが、それほど驚くことではない(チタン製のソーラーグラフ 40mmのほうが似合いそうだ)。ただこれはタグ・ホイヤーの素晴らしい行動だと思う。高スペックの小ぶり(37 mm以下)ダイバーズウォッチの選択肢は限られている。タグ・ホイヤーはクォーツムーブメントを含め、日常使いのスポーツウォッチを小ぶりサイズで製造してきた長い歴史がある。

Tag heuer solargraph 34mm
Tag heuer solargraph 34mm
Tag heuer solargraph 34mm
 かつてドクサが小ぶりダイバーズを製造していたし、シチズンは現在でも製造している。そして今では、特にマザー オブ パールやダイヤモンドに特別な価値を見出す購入者がいれば、タグ・ホイヤーとの競争が激化している。

 確かに、34mmの自然なセグメントは女性になると思うが、この34mmはマーク(・カウズラリッチ)の手首に装着しても極端に小さくは見えなかった(彼はこの記事のために写真を撮り下ろした)。もし40mmのソーラーグラフが手首に対して少し大きいと感じた人は、34mmケースのほうがいい解決策かもしれない(チタンからSSに変わっても問題なければ)。

Tag heuer solargraph 34mm
 新しいソーラーグラフ 34mmは、LVMHウォッチウィークで発表されたほかのモデルほど派手ではないかもしれないが、クールなブルーダイヤルモデルはどちらも25万円を少し超える程度の価格であり、細い手首にフィットする負担のかからないダイバーズウォッチを探す現実主義者の購入者にとっては魅力的な製品である。

基本情報
ブランド: タグ・ホイヤー(TAG Heuer)
モデル名: アクアレーサー プロフェッショナル 200 ソーラーグラフ(Aquaracer Professional 200 Solargraph)
型番: WBP1311.BA0005(ブルーダイヤル)、WBP1315.BA0005(ポーラーブルー)、WBP1312.BA0005(MOP)、WBP1313.BA0005(MOPとダイヤモンドインデックス)、WBP1314.BA0005(MOPとダイヤモンドインデックス&ベゼル)

直径: 34mm
厚さ:9.7mm
ラグからラグまで: 40.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブルー、ポーラーブルー、マザー オブ パール(MOP)
インデックス: ロジウムプレートのアプライドバーまたはダイヤモンド
夜光: スーパールミノバ®
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: センターリンクがポリッシュ仕上げのSS製ブレスレット(コンフォートリンクエクステンション付きダブルセーフティーフォールディングバックル)

Tag heuer solargraph 34mm
ムーブメント情報
キャリバー: TH50-01(ラ・ジュー・ペレとのコラボレーションによる独自ムーブメント)
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示
パワーリザーブ: 約10カ月(40時間未満の充電で完了)
巻き上げ方式: ソーラー充電
クロノメーター: なし
追加情報: ソーラー駆動、5年保証

価格 & 発売時期
価格: ブルー&ポーラーブルーダイヤルともに26万9500円、従来ダイヤルのMOPが29万7000円、MOPのダイヤモンドインデックスが37万4000円、MOPのダイヤモンドインデックス&ベゼルが62万7000円(すべて税込)
発売時期: ブルーと従来ダイヤルのMOPとMOPのダイヤモンドインデックスが2024年2月、ポーラーブルーが2024年4月、MOPのダイヤモンドインデックス&ベゼルが2024年6月(すべて予定)
限定: なし

ヴィンテージパテック フィリップのなかでも特に希少な3針モデルをご紹介。

あなたは間違いなく自動巻きのRef.2526を知っているだろうが、ブラックダイヤルにゴビ(Gobbi)のサインが入ったものは見たことがないだろう。そして、エドモンド・ヒラリー(Edmund Hillary)がエベレスト制覇の際着用していたのと同じタイプの特大サイズの、そしてタペストリー文字盤を備えた素晴らしいロレックス プレ・エクスプローラーも登場。さらに、ジャガー・ルクルト、モバード、L.ルロワ(L. Leroy & Cie)などの珍しい時計も揃えた。

パテック フィリップ カラトラバ Ref.2526、超レアなブラックダイヤル仕様
Patek Philippe Calatrava 2526
 驚くべきRef.2526は、1953年に発表されたパテック フィリップ最初の自動巻き時計だったと言われるモデルだ(少なくとも、最初のうちのひとつ)。オリジナルのブラックダイヤルは、このリファレンスでは非常に希少である。ここでオリジナルという言葉を強調しているのは、あとから交換されたものではなく、オリジナルのエナメルダイヤルが真に望まれているからだ。ブラックダイヤルには、第1世代ダイヤル特有のインデックスが配されているためご安心を。そして6時位置のすぐ上には、非常に特別なサインが記されている。そう、そこにある1行の“Gobbi Milano(ゴビ・ミラノ)”というテキストがすべてを物語る。この時計は、ゴビがサインした唯一のブラック文字盤の2526だと考えられている。オークション会場を沸かせるような個体だ。これ以外のディテールとして、以前ポリッシュされた形跡があるものの、はっきりとわかるホールマークが健在。このイエローゴールドのケースが、素晴らしいコンディションを保っていることがわかる。

Patek Philippe Movement 2526
 ヨーロッパの販売店、Iconeekがこの特別な2526を、掲載時点で約23万5000ドル(当時の相場で約2733万円)で提供していた。

ジャガー・ルクルト “スノードロップ” Ref.E877
Jaeger-LeCoultre 'Snowdrop'
 メモボックスはジャガー・ルクルトの象徴的な時計のひとつで、この“スノードロップ”モデルは1950年初頭の発売以来、さまざまな形やスタイルで登場したことを思い出させてくれる。Ref.E877のオーバルケースは、間違いなく1970年代のものである。およそ2000本が製造され、この時代の時計、特にブラックダイヤルは一般的ではない。43mmのケースは一見すると巨大に見えるかもしれないが、ラグがないため手首の上に装着すると控えめなサイズに見える。以前の自動巻きメモボックスモデルがバンパー式であったのに対し、これに搭載される自動巻きCal.916は、より現代的なローターを備えている。

 このおもしろいジャガー・ルクルト メモボックスは、Matthew Bainのサイトで4950ドル(日本円で約58万円)にて販売される。

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ロレックス プレ・エクスプローラー “オヴェトーネ” Ref.6298
Rolex 'Ovettone' 6298
 ロレックスのRef.6098と6298は、のちのエクスプローラーのいくつかの特徴、特に36mmというケースサイズがマッチしているため、“プレ・エクスプローラー”モデルとして認定されることが多いが、文字盤にはまだエクスプローラーの名は記されていない。初期のバブルバックの流れを汲む、ドーム型のケースバックを備えており、また1953年にヒラリー・エドモンド卿の手首に巻かれてエベレストの頂上に登ったことでもよく知られている。信じられないほどのタペストリー文字盤が、この時計の大きな魅力であるのは明らかであり、完璧なラジウムドットとアプライドインデックスもそのまま残っている。さらに、ブレスレットにエンドリンクがないことにも注目してほしい(これらは1954年にロレックスが特許を取得したもので、すぐにエクスプローラーに採用されたわけではない)。この時計が1953年に製造された一方で、ブレスレット(少なくともクラスプ)には1956年という刻印があるため、これはあとから追加されたものかもしれない。ときには少し隙間が生じることもあるが、私には少し長いように思える。予想どおり、この自動巻きムーブメントは1955年まで生産された、初期のデイトジャストやサブマリーナーにも搭載されていたCal.A296である。

Rolex movement A296
 イタリア人ディーラー、エルヴィオ・ピヴァ(Elvio Piva)氏が、この素晴らしいロレックスを掲載時点で約1万7900ドル(当時の相場で約208万円)で出品していた。

モバード スーパーサブシー300
Movado Super Sub-Sea 300
 このモバードのコンディションは、今日紹介しているほかの時計には遠く及ばない。しかし、1970年代のダイバーズウォッチとしては非常にクールであり、両方向回転するベークライトベゼルと、非常に読みやすい文字盤を備えている。本モデルは、今見ているブラックとダイバーの大好きなオレンジの2色で展開していた。搭載される自動巻きムーブメントはゼニスのCal.2552 PCをベースにしている。当時、この両ブランドは同じ傘下にあったのだ。時計の写真はもっとわかりやすいものでなければならないが、いずれにせよ、まともな時計であることには間違いない。唯一の大きな問題は、秒針に施された奇妙な夜光塗料だ。ただインデックスの焼けたトリチウムとよく調和している。

 eBayの出品期限は切れており、記事執筆時の入札はまだ900ドル(当時の相場で約10万円)を下回っていた。

L.ルロワ クロノグラフ
Leroy& Cie Chronograph
 このエレガントなクロノグラフを最初に見たとき、文字盤にはパテックやヴァシュロンと書かれているのを想像するかもしれない。ただしよく見ると、1940年代から50年代のファッショナブルなパリジェンヌの注目を集めてブレゲと競った、L.ルロワによってつくられたことがわかる。35mmサイズのこのクロノグラフは、パテックのクロノグラフ Ref.1579 “スパイダー”シェイプをほうふつとさせる、派手なラグを装備し、またアプライドインデックスが文字盤に見事なバランスをもたらしている。内部には信頼性の高いValjoux 23が収められ、出品者は素晴らしいコンディションだと説明している。

Leroy& Cie Chronograph movement
 フランス在住のコレクターがこのL.ルロワ クロノグラフを、掲載時点で約7280ドル(当時の相場で約85万円)にて販売していた。

ジャガー・ルクルトは1940年代から1970年代初頭までレベルソを製造していなかった。

今では考えられないことだが、最近ではJLCがレベルソの90周年を祝い、昨年ニューヨークでユニークなリバーシブルウォッチに特化した展示会を開催した。しかし何十年ものあいだ、それはメーカーの歴史のなかでほとんど忘れ去られた存在として放置されていた。

 その状況が一変したのは、1972年に当時ジャガー・ルクルトのイタリア代理店だったジョルジオ・コルヴォ(Giorgio Corvo)がル・サンティエのメーカーを訪問したときだ。

corvo reverso jaeger-lecoultre
25年近く、ジャガー・ルクルトはレベルソを製造していなかったが、70年代に入るとこの時計の状況は一変した。

 ジョルジオの孫であり、現在はイタリアにある高級な独立系販売店、“GMTイタリア”を経営するヤーコポ・コルヴォ(Jacopo Corvo)氏はこう話す。「祖父(ジョルジオ)のコルヴォは製造メーカーに行きました」。話によると、祖父のジョルジオがメーカーの引き出しを開けた際、ジャガー・ルクルトが1948年に製造を中止して以来存在を忘れていた、200本のステイブライトスティール製(初期のステンレス合金)のレベルソケースを発見したという。

「祖父が“レベルソは必要だ”と言っていました」とコルヴォ氏は説明する。「当時、マーケットがメゾンに何かをつくってもらうよう依頼するのはごく普通のことでした」。イタリアの代理店から依頼されたオーデマ ピゲのロイヤル オークは、おそらくその最も有名な例だろう。

vintage 1940s jaeger-lecoultre reverso
1940年代の初期のレベルソで、ポロの生産が終了する前の個体。

「その場面を想像してみて欲しい」とコルヴォ氏。「1972年は完全なるクォーツショックのときです。スイスのブランドは次々と衰退し、廃業していきました。みんなクォーツ式のセイコーを買っていたのです」

 特に第2次世界大戦後、レベルソのようなレクタンギュラーウォッチは買い手の人気を失い、JLCは40年代後半に生産を停止した。しかしそれらの古いケースを発見したコルヴォはジャガー・ルクルトに、イタリアで販売したいがためにレベルソを復活させるよう働きかけ続けた。JLCは特に反転可能なレベルソケースの製造がいかに難しいかを知っていたため抵抗した。

 ジャガー・ルクルトのプロダクト&ヘリテージ・ディレクターであるマシュー・ソーレ(Matthieu Sauret)氏は、「コルヴォがイタリアに持ち帰ったケースはひとつかふたつです」と説明する。アフターサービスを請け負う時計職人や技術者を抱えていたコルヴォは彼らに仕事を振った。1年後、時計職人たちは古いレベルソケースに小さな楕円形ムーブメントのJLC製Cal.840を取り付けるムーブメントホルダーを製作した。その後、コルヴォはこの試作品をジュウ渓谷に持ち帰った。

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コルヴォ レベルソはグレーとホワイトの2種類で展開。それぞれ100本ずつ提供された。

「スイスの時計職人たちは、イタリアの時計職人が何かを発見していたのに自分たちがそれを理解していなかったことに少し腹を立てていました」とソーレ氏は言う。そこからジャガー・ルクルトはコルヴォのシステムを工業化し、ル・サンティエで発見した200個のケースを用い、レベルソを通常生産できるようにした。

 “コルヴォ レベルソ”のために、“ジャガー・ルクルト”のサインが入った美しいホワイトまたはグレーダイヤルにローマ数字という新しい文字盤もデザインされ、それぞれ100本生産された。特にローマ数字とグレーダイヤルは、ほかのレベルソとは一線を画すデザインであった。

 ヤーコポ・コルヴォ氏は、「200本のレベルソを3カ月以内にすべて販売しました」と話す。ヤーコポ氏によると、ほんの数年前までJLCの時計は年間200本ほどしか売れなかったという。またジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)やジャンニ・アニェッリ(Gianni Agnelli)など、ミラノで最も著名なVIPの何人かがコルヴォのレベルソを購入したという伝説もある(それを証明する写真を見たことがないが)。

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40年代製のコルヴォ レベルソケースは、初期のSS合金である“ステイブライト”スティールであり、サイズは38×23mm。

 コルヴォ レベルソが成功したあと、ジャガー・ルクルトはすぐにレベルソを世界中で再デビューさせるために取り掛かる。その後コルヴォは1975年まで生産された。その後数年間、ジャガー・ルクルトはレベルソの新しいケース製造に取り組んだ。それはオリジナルよりも複雑であり、防水性も備わっていた。

 真のレベルソブーム到来は、1980年代に登場した大型のレベルソケース、“グランド タイユ”がきっかけである。

 その後、1990年代はレベルソの黄金時代となった。1991年、レベルソ誕生60周年を記念して、JLCはレベルソに初めて機能を搭載した。最初に登場したのは60 ème(60周年記念)で、パワーリザーブインジケーターと特徴的な日付表示を持つ、金無垢ムーブメントのグランド タイユ レベルソであった。

「60周年記念モデルは私のお気に入りのレベルソです。すべてを変えた1本です」とヤーコポ氏は私に語ってくれた。

1990s complicated jaeger-lecoultre reversos
1990年代に黄金期を迎えた、コンプリケーションレベルソ6本を詰めたボックスセット。

 その後の10年間、JLCはパワーリザーブ、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、クロノグラフ(昨年のヘリテージ レベルソ クロノグラフのベースモデル)、ジオグラフィック、パーペチュアルカレンダーという6つの“伝統的なコンプリケーション”それぞれを搭載した、6本の限定レベルソを生産した。それぞれ500本限定のこの複雑なレベルソは、特にイタリアでヒットした。

 コルヴォ氏は「イタリアは多くの時計ブランドにとって、世界最先端のマーケットであり、イタリア市場は多くのブランドが今日のような地位を築くのに役立ちました」と話す。「非常に成熟した市場だったのです。人々は1940年代から50年代にかけて、同市場で時計を収集しました。そしてそれは時間を読むためだけではなく、ファッションの一部でもありました。彼らは今日の時計コレクターの先駆者なのです」

 その間、ジャガー・ルクルトには多くの熟練時計師が在籍し、輩出をしていた。最初はフィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏、そしてエリック・クドレ(Eric Coudray)氏やマックス・ブッサー(Max Büsser)氏のような伝説的な時計師が登場し、さらにギュンター・ブリュームライン(Günter Blümlein)がこの時代の大半をリードしていた。レベルソが復活したこの時代については、別の記事にする価値があるだろう。

コルヴォ レベルソ収集の現在
corvo reverso jaeger-lecoultre
(コルヴォ レベルソは)最も複雑というわけではないが、歴史的に最も重要なレベルソのひとつであることは間違いない。

長いあいだ、コレクターはコルヴォ レベルソの背景にあるストーリーを知らなかった。だが2021年、イタリアのWatch Insanityがジョルジオの息子 (ヤーコポ氏の父親)であるミシェル・コルヴォ(Michele Corvo)氏の素晴らしいインタビュー記事を掲載したことで、状況は一変した。リシュモンがジャガー・ルクルトを買収した直後、コルヴォファミリーはイタリアでの同ブランドの流通を止めて、インディーズに軸足を移し、F.P. ジュルヌ、MB&F(ブッサー氏がJLCに在籍していた頃をよく知っていた)など、彼らを初期から支えていた。

 しかし今日でもコルヴォ レベルソで検索すると、ローマ数字ダイヤルを持つコルヴォ レベルソ唯一の画像がヒットする(この記事に掲載している)。ここ数年、コルヴォファミリーやこの物語、レベルソの復活におけるこの時計の役割について言及されることなく、いくつか販売されているのを目にすることがある。

 コルヴォ レベルソ自体が過小評価されているのか判断するのは難しいが、ストーリーが過小評価されているのは間違いない。多くの人はこの時計がどんなもので、ジャガー・ルクルトの歴史にとってどれだけ重要なものなのかを知らないのだ。確かにコルヴォモデルのあと、JLCは80年代~90年代にかけてより印象的で複雑なレベルソを製造した。しかし、コルヴォはレベルソを文字どおり再生させた時計であり、これまでに200本しか生産されていないのだ。

corvo reverso jaeger-lecoultre
コルヴォ レベルソのストーリーはほとんど知られていなかった。

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2021年、イタリアからその重要性を強調する記事が出るまでは。

 実際、これらのケースの性質上(忘れてはならないのは、1940年代製のケースはステイブライトスティール製であった)、長い年月のあいだにディーラーがコルヴォダイヤルをその時代に適した文字盤と交換した可能性さえある。なお私が見た数少ないコルヴォ レベルソのシリアルは467xxxで始まっている。

 レベルソの持つアール・デコと美しいサーモン文字盤、スケルトンムーブメントを除けば、コルヴォは私のお気に入りのレベルソになる。ローマ数字文字盤は美しく、コルヴォにはほかの多くのレベルソにはないヴィンテージカルティエに匹敵する優雅さを与えている。

 しかしそれ以上に、コルヴォ レベルソのストーリーとその歴史的な重要性が、たとえブランド自身がそのアイデアに懐疑的であったとしても、私がジャガー・ルクルトウォッチのなかで最も好きな時計のひとつにしている理由なのだ。

コルヴォ レベルソの物語を語る上で協力してくれたヤーコポ・コルヴォ氏とマシュー・ソーレ氏に感謝する。

目の肥えた愛好家のなかで、静かな話題となっている時計がある。

時計師やジャーナリストなど関係者が投票を行うことから、“時計界のアカデミー賞”とも呼ばれるジュネーブ時計グランプリ(GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE、以下GPHG)。時計界の最高権威とされるこのアワードには、2000スイスフラン(約34万円)以下の時計を対象とするチャレンジウォッチ部門があり、

「レイモンド・ウェイルは、時計職人であった私の祖父が、ジュネーブにて1976年に創業した独立ブランドです。ロレックス コピー創業から現在まで家族経営を守っており、私が三代目です」と語るのは、現在CEOを務めるエリー・ベルンハイム氏で、2014年に経営を引き継いだ。

レイモンド・ウェイルは、1000ドルから5000ドルという“手の届きやすい価格”を重視している。すなわち多くのユーザーが渇望する価格帯だ。世界80ヵ国に進出しており、アメリカとイギリスが主要市場。かつて行われていたバーゼルワールドではメインホールの1Fに大きなブースを構えていたことからも、スイス時計業界における地位も相当高いことがわかる。日本ではまだ“知る人ぞ知る”というポジションだったが、このミレジムによって、ついにミドルレンジの注目ブランドとして一気に名を上げそうな予感がする。

 フランス語でヴィンテージの意味を持つ「ミレジム(Millésime)」の企画がスタートしたのは、約3年前だという。「ブランドをさらに成長させるための時計を求めていました。美しく、洗練され、エレガントでちょっとレトロで、もちろん手の届きやすい価格の時計をつくりたいと考えました。掲げた条件は多いのですが、つまりは“伝統的なスイス時計”ということです」

 スタッフやデザイナーとミーティングですぐに進むべき方向性は定まり、デザインも第一案を採用した。それくらい明確なビジョンが彼のなかにあったということだが、これは親子代々受け継がれている資質のようだ。「祖父からの教えは、自分がやっていることに確信が持てない場合は、その先に成功はないということ。新しい製品を開発する際には必ずプロトタイプをつくりますが、どうしても腑に落ちないのであれば、直感を信じて立ち止まることも必要。これが祖父からの大切な教えです。父からの影響は、仕事に対する情熱ですね。父は本当に仕事中毒で、1日20時間くらい働いていましたし、土日も休まなかった。しかしそのおかげで、私は父と一緒に工場やデザイナーのところを回ることもできましたし、幼少期からバーゼルワールドに出入りできましたから」

 家族経営だからこそ、信念はぶれず情熱は受け継がれる。その結果が、このミレジムなのだろう。

レイモンド・ウェイルのミレジムコレクションにはスモールセコンドとセンターセコンド2種類のラインナップがある。(Courtesy of Raymond Weil)
 ミレジムが時計愛好家から称賛された理由は、シンプルでピュアなデザインにあるだろう。モデルは2種類あり、GPHGで賞を獲得したのがスモールセコンドタイプで、ほかにセンターセコンドタイプもある。時分秒の目盛りをそれぞれ異なるトラックに配置するデザインは「セクターダイヤル」と呼ばれており、1930年代に流行した。このレトロなムードに合わせて、ケースサイズは39.5mm。大きすぎず、さりとて小さくもないという絶妙なサイズ感にまとめた。



 ダイヤルはかなり複雑な構成になっており、スモールセコンドから外側に行くにつれて段階的に高さが上がっていく。そして最も外側のミニッツトラックは外に向かって傾斜をつくる。それぞれのセクターごとに仕上げを変えているので、同トーンの配色であっても美しいハーモニーが生まれている。

 風防はボックスガラスになっており、ケースサイドは鏡面仕上げと繊細な筋目模様の組み合わせを取り入れた。ラグもすらりと長くデザインされており、全体のプロポーションも美しい。ケースの厚みはスモールセコンドモデルが10.25mmで、センターセコンドは9.25mmと十分に薄型といえるだろう。搭載ムーブメントは、セリタベースのCal.RW4251となる。仔細に見れば見るほど支払ったプライスに対して多くのものが得られるように感じる。

 「私たちの価格ポジショニングは1000ドルから5000ドルです。自分たちをもっと上のプライスゾーンであるかのように偽ることはしません。私たちは私たちなのです。そして、だからこそ持っているノウハウがあります。何をどのくらいで開発することができるのか。レイモンド・ウェイルは、常にこの価格帯で実現できる最高のものを目指しています。これも成功の理由のひとつだと思います」

Courtesy of Raymond Weil
 2023年のGPHGにて、チャレンジウォッチ部門を受賞したことは、エリー・ベルンハイム氏にとっても大きなターニングポイントとなった。「受賞が決まった瞬間は、会社やチーム、そしてすべてサプライヤーへの感謝の気持ちでいっぱいでした。それと同時にやってきたことに間違いがなかったという確信も得られました。私は2014年からCEOに就任しましたが、いつだって一貫性を強く信じてきました。そのひとつが、手の届きやすい価格で洗練された時計をつくることであり、ミレジムの成功が、自分たちのビジョンが正しかったという証明になるでしょう」

 しかしこの成功に、安住することはない。「レイモンド・ウェイルは、まもなく創立50周年を迎えます。50年というのは、時計業界ではまだ“若い”とされますが、人間でいえばマチュアな年齢。成熟した魅力も必要です。そういうタイミングで、ミレジムをリリースできたことは喜ばしいこと。ミレジム・コレクションは、おそらく私たちのブランドの足跡を記すに最高の方法だと思います」

 そして50年、100年と会社が続いていくことを願う。「会社の独立性を保ち続けること。そしていつか四代目にバトンを渡すこと。それが私にとっての最終目標になるでしょう。私は野心家ですが、会社が急成長することは好みません。時計業界に革命を起こすことなど考えていませんし、ゆっくりと成長すればいいのです」
 ファミリービジネスの良さは、地に足の着いたやり方で時計作りを進めていけることにある。レイモンド・ウェイルはミレジムの成功によって、愛好家から注目を集める存在になった。しかしその成功体験に奢ることなく歩みを進める。「今年のWatches & Wondersにも期待してください」と笑うエリー・ベルンハイム氏は、確かな自信をにじませていた。

ブランド誕生から50周年を迎え、クレドールが新たな幕を開けた。

第1弾として選ばれしは、新しいクレドール ゴールドフェザー。かつて世界最薄を誇ったムーブメントを搭載した薄型ドレスウォッチだ。ラグジュアリースポーツが全盛のいま、新たなドレスウォッチはどこを目指すのか?

ゴールドフェザーの歴史とは、すなわちセイコーの薄型メカニカルの原点であり、いまもその象徴である。始まりは1950年代。日本の時計産業が戦後復興から再び活気を取り戻し、世界を目指した時代だ。

当時、品質と機能の実証としてまず求められたのは精度だった。国内でも国産時計品質比較審査会が開催され、さらにその先にはスイス天文台クロノメーターコンクールがあった。こうした高精度を追求したのがグランドセイコーだ。そしてその一方で対抗軸にあった薄型を追求したのが、セイコー ゴールドフェザーである。何故、薄型が重視されたのか。それは精度と同様に技術力のアピールだったから、とセイコーウオッチの商品企画、神尾知宏氏は言う。

50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル(写真右)と、そのダイヤルのモチーフになったゴールドフェザーを源流にする1970年代の「セイコー特選腕時計」の薄型ドレスウォッチ(写真中。コレクター所蔵品)。当時はこれと同じダイヤルとムーブメントを用いた提げ時計(写真左。セイコー ミュージアム 銀座所蔵)もあった。

「薄型化は、高度な設計と製造、さらに組み立てや調整の匠の技能が合わさった総合的な技術です。当時、世界に誇る製品を目指し世に送り出そうと高まる気運がグランドセイコーとセイコー ゴールドフェザーに注がれ、とくに後者が搭載したCal.60は、中3針の手巻き式で当時世界最薄の2.95mmを実現したことで、精度と並ぶセイコーの技術力の象徴となりました」

 その開発思想は継承され、1969年に2針化した1.98mm厚のCal.6800(Cal.68系)として結実した。搭載したのが名機、セイコー U.T.D.(Ultra Thin Dress)だ。このCal.68系は、その後もアップデートを重ねながら、クレドールを代表する薄型ムーブメントとして今なお進化を続ける。
 いわば精度が数値化される技術であるのに対し、薄さはよりフィジカルに即した技術といえる。前述した総合力に加え、デザインにも視覚に訴える薄さの演出がなされた。外装設計担当の石田正浩氏が解説する。

 「(オリジナルのゴールドフェザーは)薄型ムーブメントに加え、ケースをより薄く見せるため、風防を切り立てる一方で、サイドを薄く仕上げていました。さらに裏蓋をすり鉢状にして肌との接触面を減らし、薄く感じるようにしていたのです。ラグも正面は極力細くしていますが、見えない側面や根本を厚くすることで強度と耐久性を与えていました」

 新開発の薄型ムーブメントを始め、こうした細部にいたるまで多くの創意工夫を盛り込み、オリジナルのゴールドフェザーは完成した。羽根のような美しさと触れた時の軽やかさを目指した、その名にふさわしい薄型ドレスウォッチだったのだ。

ブランド創成期の薄型ドレスをオマージュした、新時代のゴールドフェザー U.T.D.

セイコー ゴールドフェザーは1960年の誕生から、その役割を1969年に登場した高級時計コレクション「セイコー特選腕時計」へと引き継いでいった。そして1974年に「セイコー特選腕時計」はセイコーの上位ブランドのひとつとして独立。それが現在のクレドールである。ブランド誕生50周年を記念して今年発表されたクレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデルでは、70年代当時の薄型ドレスウォッチのダイヤルをモチーフとした。

クレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデル GCBY995

1974年のオリジナル。
 限定モデルのデザインのもととなったオリジナルは、ケースとラグが一体化したシェイプの正面をフラットに仕上げ、切り立ったボックス状の風防をベゼルリングが囲む。裏蓋は縦方向の平面からサイドラインに向かって傾斜をつけ、薄さをより演出していた。これに対し、限定モデルはボンベダイヤルをケース全面に広げ、初代セイコー ゴールドフェザーを範に取る全体に柔らかで優美なフォルムだ。ラグはテーパーをつけ、面取りしたモダンなスタイル。シースルーバック仕様にも関わらず、8mmという薄さを実現したのは新開発のケース構造にある。
 「当時は非防水(編注;ゴールドフェザーのオリジナル)でしたが、日常生活防水にするためにはパッキンなどでのシーリングが必要で、そのため本来ムーブメントの周囲にある中枠をケースと一体化しました。さらにボンベダイヤルの採用には、ケース内側の底部をコンマ数ミリレベルですり鉢状にし、中枠を省いても強度を担保し、収納位置もより下げたのです」(石田氏)

50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル

GCBY995 121万円(税込)

ケースにはステンレススティールを採用する。これも1979年にクレドールがそれまでのプレシャスメタルからSSを採用し、より多様性のあるドレスウォッチとして独立ブランドになった経緯を踏まえれば、記念限定らしいオマージュなのである。世界限定100本。4月19日(金)発売予定。
 中枠のケース一体化には、加工を含め新たな作り方やプロセスも開発したという。これも手作りに近いクレドールだからこそできたといえる。

 最大の特徴であるダイヤルは、横ストライプに雪氷のようなテイストを施したオリジナルに対し、限定モデルではボンベ形状に繊細な和紙や絹糸を思わせるテクスチャー感で仕上げる。そして共通する極細のローマ数字のインデックスについて神尾氏はこう説明する。

 「これは当時の印刷技術を現代的に継承するべく復活させました。プリントは交差部分や角ほど印刷がつぶれやすく(インクが溜まりやすいため)、それを想定したセリフ(書体の端飾り)に補正してすっきりと見せるなど、これまでのデザイナーたちが培ってきた経験とノウハウを注ぎました。一方、当時に比べると現代では多版を重ねることができるようになったので、数字はより立体的になっています。繊細なインデックスに合わせて針はドーフィンにセンターラインを記し、視認性を上げました。

 手に取ったあとの気づきがあってこそ、愛着につながる。そうした思いから、クレドールは正規販売店として認定されたクレドールサロンや、クレドールショップでのみ購入が可能だ。特にブランド50周年を迎えた今年は、例年以上にその世界観の訴求に力を注ぐという。伊勢丹 新宿店のクレドールショップが、ブランドの世界観をより一層体現し体感できるクレドールサロン(3月27日より)として生まれ変わったこともその一環で、リニューアルに伴い4月4日~4月30日にかけてフェアを開催している。そこでは、本稿で紹介した50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデルがサンプル展示されるほか、対象商品を購入することでビスポークストラップ(※)かオリジナルノベルティが進呈される。クレドールの世界へ没入するのに、またとない機会となるだろう。

※対象モデル購入で、好きな素材・色から選べるセミオーダーストラップをプレゼント(納品までは6カ月程度の時間を要する)。 対象モデルについては売り場スタッフまで。ゴールドフェザーSSモデルの場合は、美錠も付属。

IWCは本日、ブランド初となるセキュラーパーペチュアルカレンダーを発表し、特別な領域へと踏み入った。

この超高精度なカレンダーキャリバーは、過去に4回しか設計されていない。このカレンダーは、2400年までの、各世紀の始まりまでスキップされるうるう年までも調整する。ただそれよりもすごいのは、彼らがムーンフェイズの精度の記録を4500万年にわたって正確に表示するという新記録を打ち破ったことだろう。そして、本日発表されたほかの新しいポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーと、基本的に同じケースサイズという次元でそれを行ったのだ。

ここで最大の功績を選ぶのは難しい。昨年まで、セキュラーパーペチュアルカレンダーモデルを作っていたのは、パテック フィリップの懐中時計Cal.89、スヴェン・アンデルセンのパーペチュアルセキュラーカレンダー、そしてフランク・ミュラーのエテルニタス メガ 4の3ブランドだけだった。4年ごとに、カレンダーに1日を追加する普通のスケジュールでは、太陽の周りを回る地球の自転の正確な偏りを考慮することができない。セキュラーパーペチュアルカレンダーは、うるう年が“00”で終わる年には1日を追加しなければならないが、400で均等に割り切れる年にはスキップされないという事実を考慮に入れている。その後、ドミニク・ルノー氏とジュリアン・ティシエ氏による新進気鋭のファーラン・マリにて、信じられないほどシンプルなセキュラーカレンダーモジュールがリリースされ、人々を驚かせた。これは普通のラ・ジュー・ペレ社製G100ムーブメントを、Only Watch 2023のために、世界で最も挑戦的なコンプリケーションのひとつへと変貌させたものだ。いまやIWCも、パーペチュアルカレンダーの精度を保証する新しい400年歯車を備えた時計を発表し、このカテゴリーに加わった。

プレビューで公開されたプロトタイプ。Photo by Mark Kauzlarich
IWCを象徴するダブルムーンディスプレイは、北半球と南半球のムーンフェイズを表示し、4500万年という精度を誇る。これは以前までの記録保持者であるアンドレアス・ストレーラー ソートレル・ア・リューン・パーペチュエル 2M(206万757年経過すると調整が必要)の精度をはるかに上回る。そして同社のムーンフェイズ表示で最も精度が高いのは、577.5年に1回の調整で済む、2003年発表のポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー(Ref.IW5021)であった。IWCはスーパーコンピューターを駆使して、22兆通りの歯車の組み合わせをシミュレートし、結果3つの中間ホイールを使った新しい減速歯車列を完成させた。
 これらはすべて、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げが混在した44.4mm径×15mm厚のプラチナケース(技術的にはほかのポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーより0.1mm厚い)に収められている。文字盤はガラス製で、その裏面はフロスト仕上げとホワイトのラッカー仕上げが施してある。ガラス製サブダイヤルはそれぞれ文字盤に固定されてから印刷される一方、文字盤装飾は手作業で植字。またこの時計は、表と裏にダブルボックスサファイアが施されている。IWC ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーは限定版ではないが、“価格要問合せ”となっているため、8桁はくだらないだろう。

我々の考え
IWCの歴史は、クルト・クラウス以前と以後の2つの時期にわけることができる。元主任時計師であるクルト・クラウスは、1985年、同社初のパーペチュアルカレンダーである“ダ・ヴィンチ”を開発・指揮を執り、デビューを飾った。それ以来、彼らはスプリットクロノグラフを備えたパーペチュアルカレンダー、グランドコンプリケーション(ミニッツリピーターを追加)、そして“イル・デストリエロ・スカフージア”(トゥールビヨンを追加)などを製造していった。しかしこの時計はクルト・クラウスから始まった、40年近くかかった開発の集大成である。それだけでも祝うに値する。しかし、 それを(比較的)装着可能な44.4mm径×15mm厚のケースに入れたこともまたひとつの成果だ。もしポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーを探しており、(非常に大きな)アップグレードのための資金があるなら、この新しいエターナル・カレンダーを買わない理由はないだろう。

プロトタイプを装着。Photo by Mark Kauzlarich
私が見たプロトタイプは、ガラス製ホワイト文字盤のコントラストがほとんどなく(特にプラチナケース)、全体的なデザインにあまりメリットを与えていない。残念なことに最終的な変更がまだ加わるため、あまり撮影することができなかった(裏蓋の撮影はNGだった)。IWC側も、最終的な構造を見せるためのムーブメントイメージをまだ共有していない。


ガラス製の文字盤にもかかわらず、正面から見ると、開口部で示されない限り、興味深いものを見ることはできない。細い針も文字盤上で見失いやすく、アプライドシルバーの数字は(針と同様)青くしたほうがよかっただろう。IWCのこの大胆な成果に対しては、ほかのポルトギーゼにはないサテン仕上げやカラーエナメルを使用した、より伝統的な文字盤デザインが適していたかもしれない。そうすれば、フローティングガラスのサブダイヤルは、この時計の特別な性質を際立たせるのに十分だったかも。しかし、IWCは彼らの大きな成果をひとつの形だけで存在させるようなことはしないので、私がもっと気に入るようなバリエーションが将来出てくることを期待している。待っていても最初のモデルは手に入らないが、それは間違いなく、コレクション性の高いものになるだろう。

基本情報
ブランド: IWC
モデル名: ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー(Portugieser Eternal Calendar)
型番: IW505701

直径: 44.4mm
厚さ: 15mm
ケース素材: プラチナ
文字盤: ガラス製、ホワイトラッカー
インデックス: ロジウムメッキの針とアプライドインデックス
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: サントーニのブラックアリゲーターストラップ、プラチナ製フォールディングクラスプ


ムーブメント情報
キャリバー: 52640
機能: 時・分・スモールセコンド、セキュラーパーペチュアルカレンダー(日付、曜日、月、4桁の年表示)、4500万年精度の永久ムーンフェイズ北半球と南半球の両方に対応)、不規則なうるう年を認識する400年歯車、スモールハッキングセコンド
パワーリザーブ: 約7日間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 54
追加情報: サファイア製ダブルボックス風防(両面反射防止加工)

ウブロは現代ビジュアルアーティストのダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)をコラボレーターに迎え入れた。

先週、世界初のサファイアクリスタル製懐中時計であるアーシャム ドロップレットが発表されたが、これは彼がウブロの公式アンバサダーとして初めててがけた時計である。


 “アーシャム ドロップレット”は、懐中時計、ペンダント、テーブルスタンドの3通りの使い方ができる。チタン製のケース、ラバー製のバンパー、そしてウブロの得意とするサファイアクリスタルで作られており、縦73.2mm、横52.6mm、厚さ22.5mmである。懐中時計の形は非対称なドロップレット(しずく型)であり、99%の計時装置が完全に対称であると考えると、それ自体が非常に珍しい。計時は対称的なデザインが普通なのだ!

アーシャムがデザインした2本の新しいチタンチェーンには、それぞれウブロスーパーコピー時計のダブル“ワンクリック”システムが採用されている。チェーンのリンクはサファイアケース内部につくられた泡のような構造を反映しており、まるでバブルを顕微鏡で見たような感じだ。この時計の役割はネックレスや懐中時計、またはチタンとミネラルガラスのテーブルスタンドに飾って彫刻のようにするなど、複数の方法で使用できる。もちろんチェーン、カラー、表面に刻印されたアーシャムのモノグラム、そしてアーシャムスタジオのグリーンの使用など、ダニエル・アーシャムのブランディングが時計の至る所に施されている。その存在は一目瞭然でアーシャムとのコラボ作品であることがはっきりとわかる。

このタイムピース(懐中時計? 彫刻? なんと呼べばいいのか分からない)は、約10日間のパワーリザーブを誇る手巻きCal.MECA-10を搭載。サファイアクリスタルの懐中時計に約10日のリザーブが必要かどうかは分からないが、まあ、これはウブロであり、常に長ければいいというものだ。見た目はハイテク感があるが、この時計には有機的な感覚がある。“アーシャム ドロップレット”を手に持つと滑らかで、触覚的には小さな生き物のように感じられる。撫でたり握ったりすることで、心が落ち着くのだ。

“アーシャム ドロップレット”は伝統的なスイス時計製造から大胆に逸脱している。このコラボレーションから期待されることではあるが、ここでのモットーは“破壊的革新”だ。アーシャムは(ウブロと同様に)賛否両論を巻き起こす存在であり、彼の作品はしばしば自称文化通の人々に眉をひそめさせることもある。しかしアーシャムは世界的に最も認知されている現代アーティストのひとりだ。このコンテクストで特にユニークなのは、彼の芸術が現代の物体に対する侵食の美学を通じて、朽ち果てる過程を探求することで時間の概念と関連している点である。

これは“時間との関係”についてのありきたりで大げさな話ではない。この問題についてのアーシャムの見解は聞く価値があるように思う。先週の発表会でアーシャムは、「僕の作品の多くは、過去を考えそれを未来と結びつけること。それは時間を混ぜ合わせるようなものです」と述べた。「このオブジェクトは過去のものであり、別の時代の時間の伝え方を思い起こさせますが、未来の技術のようにも感じられる。この時計は時間を伝えるだけのオブジェクトではなく、彫刻的な提案でもあるのです」と続けた。


我々の考え
世界的に有名な現代アーティストとコラボレートすることは、これまでウブロにとって成功の方程式であった。ブランドの一見した狂気には常に巧妙な方法がある。間違いなくウブロは毎朝目覚めて“今日は何か違うことができるだろうか?”と考えているだろう。これはどのスイス時計ブランドにとっても大胆な姿勢である。しかし世界的に認知されたアーティストとのコラボレーションを行うことで、普段なら注目しない消費者層にもアピールすることができる。アーティストの既存のファン層の広さを考えれば、世界限定99本の時計を売るのは難しいことではないはずだ。この種のコラボレーションは、適度に行われる限りウブロにとって常にいい影響をもたらす。

アーシャム自身も風変わりな人物である。彼はしばしば同じクリーム色またはベージュ色のユニフォームに、同じ野球帽、そして同じくオレンジがかったレンズか黒のサングラスを身につけている。有名人でありながら、謎めいた人物像を維持しているのだ。見ている側としては、ダニエル・アーシャムの効果は非常に綿密に構築されているように感じられる。彼の行動、話し方、プロダクト、そして彼がてがけるパートナーシップはすべて、非常によく考え抜かれた、収益性の高いダニエル・アーシャム スタジオのエコシステムの一部なのだ。

アーシャムが独自の視点を持っていることは疑いようはなく、その視点は多くの人々から尊敬されている。ただし彼の最大の功績は、コラボレーションの時代において実際のアート作品以上に彼の個人ブランディングとスタイルを駆使して成功を収め、利益と有名人の地位を得たことである。これと同じことが村上 隆にも言える。ウブロがこのようなコラボレーターの力を認識したのは賢明だ。ここで重要なのは、十分に識別可能な特徴を持ちつつ、それを時計という概念に変換できるアーティストを見つけること。これはプロダクトという名のポップアートなのだ。
 今日、カウンターカルチャーを牽引するアーティストの役割は、大規模な商業的取り組みと非常に巧妙なマーケティングに取って代わられた。アーシャムはアーティストだが、それ以上に彼自身が市場性の高い商品としても成功している。彼のブランドは、ウブロやティファニーのようなLVMHという巨大ブランドとコラボレーションできるほど商業的に成功しており、大衆にとって“簡単”に消費しやすく、そして興味を引き続けるのに十分な“クールさ”を持っている。たとえ“アーシャム ドロップレット”が好みでなくても、この懐中時計はウブロらしさとアーシャムらしさを兼ね備えており、どちらの側も否定できない。これはデザインの理想をそれぞれに尊重しているのだ。


ウブロ×ダニエル・アーシャムのコラボレートは、ブランドとアーシャムの双方にとって数百万ドルの利益をもたらす可能性が高い。このコラボレートを愛するか嫌うかは別として、何らかの感情を抱くことは間違いない。そしてそれこそがウブロの勝利と言えるだろう。


基本情報
ブランド: ウブロ(Hublot)
モデル名: アーシャム ドロップレット(Arsham Droplet)
型番: 916.NX.5202.NK

直径: (縦)73.2mm×(横)52.6mm
厚さ: 22.5 mm
ケース素材: シャイニー仕上げのマイクロブラスト加工&アーシャムグリーンのラバーバンパーが付いたチタン
文字盤: セミマット仕上げのアーシャムグリーン
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット:
ネックレス&ポケットチェーン/ポリッシュ仕上げのリンクが付いたチタン製・マイクロブラスト加工のシャイニー仕上げのクラスプとワンクリックチップ
テーブルスタンド/マイクロブラスト加工チタン・ポリッシュ仕上げのグリーン アーシャム スフィアとミネラルグラスルーペ

ムーブメント情報
キャリバー: HUB1201 マニュファクチュール製MECA-10
機能: 時・分、パワーリザーブインジケーター
直径: 34.8mm
厚さ: 6.8mm
パワーリザーブ: 約240時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 24

価格 & 発売時期
価格: 1205万6000円(税込)
限定: あり、世界限定99本

H.モーザーの新作、ストリームライナー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン ブルーエナメルである。

ブレスレット一体型のステンレススティール(SS)製スポーツウォッチの需要が完全に廃れてしまったわけではないものの、過剰に評価されていた時代はもう過ぎ去ろうとしている。多くの人が求めてやまない、特定の人気モデルを思わせるデザインを持つ一部の時計は一時的に盛り上がりを見せていたようだが、その波もすぐに収束してしまった。しかしながら、H.モーザーのストリームライナーは健在だ。それどころか、時折このように期待を超えてくる製品を発表したりもする。

ストリームライナーが長きにわたって愛され続けている理由はいくつかある。そのひとつが、ほかのブレスレット一体型デザインとは一線を画していることだ。滑らかで丸みを帯びたケースシェイプ、リンクが横に真っ直ぐ伸びたブレスレット、そして(ケース同様に)年々洗練を続ける大胆な文字盤、これらすべてを組み合わせることでモーザーらしさを表現している。また、ストリームライナーはクロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨンなど素晴らしいコンプリケーションを搭載した数々のモデルのプラットフォームとしても機能しており、そのどれもがストリームライナー以外の何ものでもない一貫したデザインを有している。
今作は、ストリームライナーのケースにミニッツリピーターを格納した初めてのモデルというわけではない。モーザーとMB&Fによる“ストリームライナー・パンダモニウム”ミニッツリピーターは、延期の末に開催された今年のOnly Watchオークションにおいて30万〜40万スイスフランの想定落札価格に対し38万スイスフラン(当時のレートで約6540万円)で落札された。しかし同オークションの開催にあたっては、クリスティーズに対するサイバー攻撃、それによるオンライン入札の中止などいくつかの問題が発生していた。
H.モーザーとMB&Fによる“ストリームライナー パンダモニウム”ミニッツリピーター
MB&Fとのコラボレーションでもなく、文字盤上にDJパンダもいない新しいストリームライナー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン ブルーエナメルは29万6000ドル(日本円で約4700万円、日本の販売価格は要問い合わせ)とやや控えめなプライスながら、(私の見識では)価格以上のパフォーマンスを見せてくれている。(この記事はバリュープロポジションではないが)近代的なミニッツリピーターでそのレンジにハマるものはちょっと思いつかない。パンダやフローティングテンプの代わりに、ワンミニッツトゥールビヨンを備えている。
昨年のストリームライナー・スモールセコンドのリニューアル時に、この文字盤を見たという人もいるかもしれない。モーザーはこれについて、同じアクアブルーのフュメを持つ“グラン・フー”エナメルに槌目模様を施したものだと説明しているものの、私の目にはさっぱり区別がつかない。最新のスモールセコンドモデルに見られるデザインは素晴らしいと思う半面、サーキュラーグレイン仕上げが施されたインダイヤルが文字盤の美しさを損なっているように見えるのはあまり好きではなかった。新作ではミニッツリピーターのハンマーとトゥールビヨンに合わせて文字盤がくり抜かれているが、ダイヤルの質感とぶつかり合っている様子もなく見た目にも美しく仕上がっている。なお、モーザーについて語るとき、フュメと琺瑯(vitreous enamel)文字盤の説明のくだりでアンオルダインが頻繁に登場する。しかしモーザーは歴史的にこれらの技法に取り組んできたブランドのひとつであり、加えてこのふたつは価格帯も大きく異なるので、文字盤の仕上げが似ているというだけで競合することはないだろう。
新作は縦・横・厚さのいずれもが約3.5mm大きくなっているにもかかわらず、驚くほど快適に着用できる。SS製のケースは直径が42.3mmで厚さが14.4mmだが、この時計に搭載された複雑機構を考慮するとさもありなんという感じだ。素材となる金属は、ミニッツリピーターにとって最適なものが選択されている。まあ、これについてはまたのちほど。針にはグロボライト®️によるインサートが施されており、暗闇でリピーターのチャイムを鳴らしたくない場合でも針で時刻を知る(時計の本来の用途のひとつだ)ことができる。
モーザーの仕上げに対するこだわりが私は大好きだ。アンスラサイトのブリッジとプレートにはモーザーのダブルストライプが施され、大手独立系ブランドの30万ドル近い価格の時計に期待される要素をすべて盛り込みつつ、精悍な印象を与えている。さらに細かく見てみると、ほかの大手ブランドがこの価格帯の時計で見落としてしまっている気配りが随所に散りばめられている。
その最たるものが歯車で、下の写真では特に2番車が強調されているが、輪列内の小さな歯車にもこだわりが及んでいるのが見て取れる。モーザーはブリッジ付近だけではなく、歯車の軸やその周りの内角にも仕上げを施している。また、ムーブメントには奥行きもあり、これはランゲのようなブランドでも高く評価されているポイントである。デッドスペースを完全に排除することはできないため、美観的に優れた手法でそれをアクセントとして生かしているのだ。
ご存じのとおりトゥールビヨンはただ複雑であることが価値となっている場合が多く、モーザーはこのリリースで精度の具体的な数値を公開していない。ときにブランドが自らの時計製造の限界を超えるべく挑戦する必要があることは理解しているし、それはこの時計に関しても同様だ。モーザーには長年にわたり、素晴らしいトゥールビヨンウォッチを作ってきた歴史がある。ただし、この時計がミニッツリピーターとしてどのような評価を受けるかは見てみたい。
さて、リピーターに話を戻そう。実機をチェックしていたとき、リピーターを何度か異なる環境で作動させてみた。時計は音を増幅する特別なディスプレイスタンドに設置されていたが、手に持ったり手首につけたりした状態で鳴らしてみたりもした。リピーターには、品質を語るうえでのふたつの主要な要素(音量と音質)がある。いずれのパターンにおいても、私がこれまで聴いたなかでもっとも大きな音量でも、もっともクリアな音量のリピーターでもなかった。素材とリピーターの構造に関する物理学的な話はもう少し調べる必要がありそうだが、音響性能に影響を与えているであろう要因がいくつか見受けられた。
音は空気分子が振動して波となって移動することで生じ、その波が通過する素材が振動することで発生する。例えばある素材はこの伝達効率がほかの素材よりも高いが、密度の低い素材ほど音をよりよく伝えると言われている。これがF.P.ジュルヌが自社のチャイムウォッチにSSを好む理由である。パテックなどほかのブランドは、ケースの内部や文字盤の設計を利用して音をよりよく増幅する“アドバンストリサーチ”プロジェクトを試みている。サファイアガラスはSSよりも密度が低いため、理論的には音をよりよく伝えるのだが、ミニッツリピーターはクローズドケースバックのほうが大きな音がすると言われている(A/Bテストをする機会はないのだが)。ダイヤル側にチャイム機構があるほかのブランド(モーザー以外)の時計だと、F.P.ジュルヌのミニッツリピーターの音を聴いたことがあるが、そちらのほうがチャイムの音が大きかった。今回のモデルだと、厚さ2.2mmのドーム型サファイア風防が音を妨げている可能性がある。
全体のパッケージを振り返ってみると、やはりなかなかに素晴らしい時計だと言える。細部をバラバラに取り上げるのではなく時計全体を見ることが大事だと考えているのだが、これが最初にストリームライナーを好きだと言った理由につながってくる。シンプルなものからとんでもない複雑機構を搭載したものまですべてを内包しつつ、ストリームライナー以外のなにものでもない優れたプラットフォームだ。同時に、細部のディテールが非常にうまく機能している。
 ケース一体型のブレスレットには、モーザーのブランドロゴが刻印された3つ折りクラスプが取り付けられている。また、2.2mm厚のサファイアクリスタルも特徴的だ。モーザーがクリスタルありとなしでそれぞれのパターンの測定値を送ってくれるのはありがたい。皮肉屋は、クリスタルなしでは時計をつけられないじゃないかと言うかもしれないが、この数値は時計が手首にどのように収まって見えるかを正確に示すものである。このようなブレスレット一体型の時計の場合、ブレスレットはかなり高い位置でケースにセットされているため、ドーム型風防はMB&Fのそれほど手首から離れているようには見えない。私の感覚からすると、非常にバランスが取れていた。
私はH.モーザーの以前からのファンだ。初めてスイスを訪れた際、最初に触れたブランドであり、技術的にも審美的にも成長し続けていることに感銘を受けた。また、複雑機構のスペシャリストであるアジェノーSAへの投資を通じて製造面でも着実に力をつけていることからも、今後もモーザーから多くのコンプリケーションが供給されることは間違いないだろう。
H.モーザー ストリームライナー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン ブルーエナメル Ref.6905-1200。直径42.3mm、厚さ14.4mmのSS製ケース、50m防水。槌目仕上げでアクアブルーの“グラン・フー”エナメル文字盤、時針と分針にグロボライト®️のインサート。時・分表示、トゥールビヨン上にスモールセコンド、ミニッツリピーター機能搭載。ムーブメントは手巻き式のCal.HMC 905、35石、2万1600振動/時、アンスラサイト仕上げ、プレートとブリッジにモーザー・ダブルストライプ装飾、パワーリザーブ90時間。SS製ブレスレット。価格:29万6000ドル(日本円で約4700万円、日本での販売価格は要問い合わせ)。

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