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新作時計の中から、時計のプロがベスト5を選ぶ企画。

今回は時計・宝飾ジャーナリストの野上亜紀が、「主にはレディースモデルにおけるこの1年の簡単な振り返り」として選出したモデルを紹介する。今年の傾向を踏まえつつ、「少々驚かされた」として野上が選んだ1位のモデルとは?

1位:オーデマピゲスーパーコピー代引き専門店「ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ」
直径38mmの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」からレディース向けラインナップを拡充する一方で、この直径23mmの「ロイヤル オーク」登場には少々驚かされた。1997年に誕生した直径20mmモデルの系譜であるが、ケースとブレスレットに施されたフロステッドゴールド仕上げのみによる輝きで、実はダイヤモンドが用いられていないという点も秀逸。

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ」Ref.67630BA.GG.1312BA.01
クォーツ(Cal.2730)。4石。18KYGケース(直径23mm、厚さ6.6mm)。50m防水。495万円(税込み)。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000

 

2位:カルティエ「タンク ルイ カルティエ ウォッチ」
『クロノス日本版』本誌でも紹介されたが、このミニモデルは男性に向けての提案もされている、最新のジェンダーレスウォッチとも言える存在だ。転じて、ブレスレットの装いを魅力とするレディースウォッチのアイコン「パンテール」のラージモデルが展開されたという逆のパターンも実に興味深い。

 

© Sasha Marro © Cartier
カルティエ「タンク ルイ カルティエ ウォッチ」Ref.WGTA0212
クォーツ。18KYGケース(縦24×横16.5mm、厚さ6.2mm)。日常生活防水。120万1200円(税込み)。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00

 

3位:エルメス「エルメス カット」
今までにないデザインとして話題を呼んだ、ユニセックスモデル。一見シンプルに見えながらも、実は非常に複雑な形状である。計算され尽くしたフォルムに、クリエイティブ・ディレクター、フィリップ・デロタル氏の手腕が光る。

 

© Joël Von Allmen
エルメス「エルメス カット」Ref.W403249WW00
自動巻き(Cal.H1912)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG×SSケース(直径36mm)。10気圧防水。216万7000円(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300

 

4位:ゼニス「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」
1969年の原点を思わせるヴィンテージ感(このパンダモデルは個人的にもかなりツボ)もさることながら、女性用ではまだまだ数の少ない小径クロノグラフがうれしい。このモデルは女性向けのアプローチでもあり、昨今メンズ・レディースのカテゴライズを廃した実にゼニスらしい展開だ。

 

ゼニス「クロノマスター オリジナル トリプルカレンダー」Ref.03.3400.3610/38.C911
自動巻き(Cal.エル・プリメロ3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm、厚さ14mm)。5気圧防水。183万7000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861

 

5位:オメガ「コンステレーション」
おお、コンステレーションがピカピカ……、と新鮮な気持ちになった1本。オールポリッシュ仕上げもさることながら、2008年のフルモデルチェンジ時のデザインを施した文字盤にもセドナゴールドをあしらうことでさらにジュエリーライクな仕立てに。

 

オメガ「コンステレーション」Ref.131.55.25.60.52.001
クォーツ(Cal.4061)。18Kムーンシャイン™ゴールドケース(直径25mm、厚さ8.1mm)。30m防水。389万4000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087

総評
今年はレディースウォッチの流れが、少し変わった。ここ数年直径36mmを超えるようなサイズアップが続き、男女問わず装うことができるジェンダーレス化の傾向が続いていたが、今年は反対にサイズダウンしたモデルも多く見られるようになったのである。サイズダウンというよりは、むしろミニモデルと呼ぶにふさわしい。さらにジュエリー化、かつアクセサリー化への傾向が強くなったと言えるだろう。しかしただダイヤモンドなどの宝石を添えるというのではなく、地金をより輝かせる細工など、“ジュエリーウォッチ”の定義がより多層的になったという点が非常に興味深い。中にはミニモデルのターゲットを女性ばかりではなく男性にも向けた、幅広い展開を狙ったものもある。性別を問わないこの傾向は、新たなジェンダーレスの形と捉えることができるのかもしれない。この「ベスト5」の企画で選んだ時計はすべて、主にはレディースモデルにおけるこの1年の簡単な振り返りである。女性用腕時計の勢いは変わらず健在であり、そしてさらに多様化しているということを指し示すであろう。

シャネルやエルメス、ルイ・ヴィトンの時計っていいんですか?

Q:シャネルやエルメス、ルイ・ヴィトンの時計っていいんですか?
シャネルやエルメスといった、時計専業メーカーではないブランドが作る腕時計って正直どうなんでしょうか?

A:3社とも、シャネル時計スーパーコピー代引き専門店時計専業メーカーに負けないハイクオリティな時計を作っています
最近時計好きから注目を集める、時計専業ではないメーカーが作る腕時計。今ではシャネル、エルメス、ルイ・ヴィトンといったメーカーが、魅力的な時計を作るようになりました。そこで耳にするのが、これらのメーカーが作る時計って出来はいいの? という質問。結論を言うと、とても良くなりました。

もともと、こういったメーカーの多くは時計の製造を外部に委託していました。しかし、2000年代半ば以降、各社はできるだけ自社で生産する体制を整えるようになりました。加えて、時計メーカーから優秀な人材を招き入れることで、たちまち時計の質を改善したのです。

好例はシャネルでしょう。セラミックスのケースを自社で製造するだけでなく、チューダーなどが設立したムーブメントメーカーのケニッシに出資。同社のムーブメントを載せる最新の「J12」は、スポーツウォッチも顔負けの性能を誇ります。

エルメスも、名門ムーブメントメーカーのヴォーシェに出資。その後、ケースメーカーや文字盤メーカーを買収することで、スイスでも珍しい自社一貫生産体制を完成させました。同社の作る薄型時計の「スリム ドゥ エルメス」や、スポーツウォッチの「H08」などは、時計好きからも高い評価を受けるものです。

ルイ・ヴィトンも負けていません。高級時計工房のファブリック・ドゥ・タンを買収することで、同社はミニッツリピーターのような複雑時計や、ユニークな文字盤を製造するノウハウを手に入れました。

Photograph by Masanori Yoshie
ルイ・ヴィトンは2002年に腕時計の生産部門である「アトリエ オルロジュリー ルイ・ヴィトン」を創設。さらに2011年には「ラ ファブリク デュ タン」を買収することで、ハイコンプリケーションウォッチの自社開発/製造ですらも可能とした。また、ラ ファブリク デュ タン ルイ・ヴィトンにはかつての生産部門と文字盤工房のレマン・カドランも統合している。
生産体制を整えたこれらのメーカーは、近年、独自性を強調するようになりました。セラミックケースを全面に押し出すのはシャネル。またシャネルは、ハイジュエリーの時計でも高い評価を受けています。一方で、時を解釈したユニークな複雑機構を打ち出すようになったのはエルメス。ルイ・ヴィトンは、時計メーカーには決して発想できない複雑時計や、鮮やかな色を強調するようになりました。

正直、専門ではないメーカーの作る時計は、かつてあまり高い評価を受けませんでした。しかし、各社の本気は、時計の質を大きく高めただけでなく、時計メーカーにはない個性をもたらすようになったのです。時計選びの際に、選択肢に非専業メーカーを加えるのは、もはや常識と言っていいでしょう。

シャネル「J12 キャリバー 12.1」Ref.H9541
ケニッシ製の自動巻きムーブメントを搭載した「J12」。ベゼルの枠とリュウズに18Kイエローゴールドを採用し、かつインデックスや針をゴールドカラーに彩った華やかな1本だ。ガルバニック仕上げのイエローゴールドプレーテッドローターを備えており、トランスパレントバックから観賞できるのもポイントだ。自動巻き(Cal. 12.1)。28石。パワーリザーブ約70時間。高耐性ブラックセラミックケース(直径38mm)。200m防水。261万8000円(税込み)。
©Joël Von Allmen
エルメス「エルメス カット」
2024年、エルメスがローンチした新コレクション「エルメス カット」。ケース直径が36mmと、男女問わず着用できるサイズ感も魅力。なお、ムーブメントはヴォーシェ製のCal.H1912を搭載している。自動巻き(Cal.H1912)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径36mm)。10気圧防水。102万4100円(税込み)。

Masanori Yoshie
ルイ・ヴィトン「エスカル オトマティックローズゴールド グレー」Ref.W3PG11
ルイ・ヴィトンの2024年新作「エスカル オトマティック」のうち、18Kローズゴールド製ケースにグレー文字盤を備えた1本。ケースフォルムや文字盤のデザインは、ブランドのアイコンであるトランクが反映されている。また、ル・セルクル・デ・オルロジェと、ブランドのアトリエであるラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンが共同開発した、同ブランド初の自社製自動巻きムーブメント、Cal.LFT023を搭載している。自動巻き(Cal.LFT023)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ10.34mm)。50m防水。414万7000円(税込み)。

クロノグラフの「フライバック」と「12時間積算計」について取り上げる。

パイロットウォッチがもたらしたふたつの新機能「フライバック」と「12時間積算計」
航空機の性能が劇的に向上した1930年代、パイロットウォッチもその姿を大きく変えた。この時代に採用された新機構の中で、後に大きな影響を与えたものがふたつある。それが12時間積算計とフライバック機構だ。

「フライバック」とブランド時計コピー n級品「12時間積算計」の誕生の経緯とは?

Photograph by Universal History Archive / Getty Images
1935年のボーイング「B-17 フライングフォートレス」は、高高度を長距離飛行できる革新的な爆撃機だった。延べ8680機が製造された。実用上昇限度約1万850m。重武装時の航続距離は約2977km(スペックはB17G型)。
ジュネーブ時計学校で教授を務めたフランソワ・ルクルトは1940年代当時、12時間のような長時間積算計が生まれた理由を次のように記した。

「スポーツが人気を得るにつれて、またおそらくは戦争の影響により、こういった計測機器(筆者注:クロノグラフのこと)への需要は大きく高まった。そして多くの生産者が、分積算計といったメカニズムの生産を始めたのは事実であった(後略)」(“A GUIDE TO COMPILICATED WTACHES”)

戦争の影響とは、より正しく言うと、長距離爆撃機の誕生である。1935年には、ボーイングが約3000㎞(非武装時は約6000㎞)もの「長い脚」を持つ爆撃機「B-17フライングフォートレス」を開発。以降、各国は長距離飛行が可能な航空機の開発に取り組むことになる。

1936年もしくは1937年に完成したのが12時間積算計付きのバルジュー72VZHだ。プレスの技術を持つバルジューは、1942年に、本作を含むクロノグラフを、年に6万本も製造した。
ムーブメントの直径を拡大することで、無理なくフライバック機構を載せたUROFA59。最も成功したフライバック機のひとつ。
世界で初めて12時間積算計を開発したメーカーがどこかは不明である。しかし、1930年代半ばから1940年代にかけて、マーテル、エベラール、バルジュー、ヴィーナス、そしてレマニアなどが続々と12時間積算計付きのクロノグラフムーブメントをリリースするようになった。その恩恵を最も受けたのは、アメリカ軍だろう。例えば、1942年6月の東京大空襲を指揮したジェームズ・ドゥーリットル大佐は、当時最新鋭だった12時間積算計付きのJARDURクロノグラフを巻いてB-24に搭乗した。この個体は、スミソニアンにある国立航空宇宙博物館に展示されている。

一方、クロノグラフを止めずに再起動ができるフライバックを必要としたのは、航続距離が短い戦闘機のパイロットたちだった。1936年のロンジン13ZNを皮切りに、1941年にはドイツのUROFAがフライバッククロノグラフの傑作59を完成させた。この複雑で高価なクロノグラフが約4万本も製造されたのは、何よりもルフトヴァッフェが必要としたためである。後に、フランス空軍はフライバックの有用性を認め、これを空軍のパイロットウォッチ規格に加えた。なお、ロンジンはさらにセンター60分積算計を加えた新しい13ZNを開発したが、これはまったく普及しなかった。

フライバックのUROFA59を搭載した、チュチマのクロノグラフ。約4万本が製造された。


多くのパイロットたちに望まれたにもかかわらず、12時間積算計とフライバック機構を載せたクロノグラフは、かなり高価であった。これらの機構を備えたパイロットウォッチが少ない理由だ。12時間積算計とフライバック機構が本格的に普及するのは、1980年代半ば以降を待たねばならない。

2024年新作の「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」を着用レビューする。

アポロ8号の偉業をたたえる数々のディティールに触れながら、リニューアルされたダーク サイド オブ ザ ムーンの魅力を探る。

 

2024年に進化を遂げた「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」
オメガスーパーコピー 代引き専門店の「スピードマスター」は、オメガのみならず、名作がひしめくクロノグラフウォッチにおいても代表作として親しまれているモデルだ。1957年に「シーマスター」や「レイルマスター」とともにデビューを飾り、レーシングドライバーやパイロット、エンジニアに愛用されたスピードマスターは、やがてNASA(アメリカ航空宇宙局)の制式装備として認定され、人類初の月面着陸にも同行することとなった。この偉業はスピードマスターに“ムーンウォッチ”の異名を与え、時計史に残る伝説として語り継がれていく。

 手巻きクロノグラフとして誕生したスピードマスターだが、その後多くの派生モデルを生み出したことでも知られる。流線形のケースを備えた「マークシリーズ」、デジタルディスプレイを備えた「X-33」、スポーティなデザインの「レーシング」をはじめ、個性豊かなスピードマスターが登場していった。

 今回レビューを行うのは、2024年に発表された「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」だ。1968年に発射されたアポロ8号は、有人で初めて月を周回し地球へと帰還した宇宙船である。本作は2018年に登場した同名のモデルをアップデートしたものであり、一見して大きな違いはないものの、ダイアルのレーザーエングレービングの仕上がりや搭載するムーブメントなど、クォリティーが全体的に底上げされている。それらひとつひとつに触れつつ、本作の魅力を探ってみたい。

 


 

オメガ「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」Ref.310.92.44.50.01.001
2024年にリニューアルを遂げた、“ダーク サイド オブ ザ ムーン”。太陽光の下では、ダイアルの月面パターンがくっきりと浮かび上がる。手巻き(Cal.3869)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。セラミックケース(直径44.25mm、厚さ13mm)。5気圧防水。220万円(税込み)。

 

リアルな月面パターンダイアル
 見どころ満載の本作だが、まずはダイアルから見ていきたい。基本的なレイアウトは「スピードマスター プロフェッショナル」と同じだ。3時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドを配し、センターにはペンシル型の時分針とクロノグラフ秒針を取り付けている。そのような中で、本作のユニークさを印象付けている要素が大きく3つある。まずは月面をあしらったダイアル、ふたつ目がイエローを取り入れたカラーリング、そして精密に仕上げられたサターンV ロケット型の秒針だ。

 多層構造によるスケルトンダイアルは、ブラックの陽極酸化処理を施したアルミニウム製。レーザー加工によって、月の表面をモチーフとしたパターンが施されている。フラットな部分のマットな仕上げと艶のあるザラついた部分とのコントラストが立体感を生み、キズミを通して見ると、クレーターのひとつひとつまでがリアルに再現されていることが分かる。6時から9時位置にかけては、内部のムーブメントが露出しており、クロノグラフ起動時にレバーが動く様子を楽しむことができる。

 ダークトーンの本作にアクセントを加えているのが、随所にあしらわれたイエローだ。12時位置に配された“Speedmaster”の文字に加え、クロノグラフ機能で使用する3本の針とインダイアル、インデックスの外端が、鮮やかなイエローに彩られている。針とインダイアルに関しては、時刻表示用のものとクロノグラフ用のものを判別しやすくなるという実用的なメリットもある。

 イエローがもたらすスポーティーさを増幅させているのが、いわゆるグランプリタイプのミニッツマーカーだ。チェッカーフラッグのようなデザインが遊び心を添え、さらにダイアルに凝縮感をもたらしている。

 

立体的な構造のダイアル。最大の見どころは、9時位置のロケット型のチタン製秒針だ。キズミを使ってよく見ると、“USA”の文字まで精密に再現されていることが分かる。
 前作のダーク サイド オブ ザ ムーンとの外見上の大きな違いとなっているが、スモールセコンドのデザインだ。一見するとただのホワイトの針のようにも見えるが、よくよく目を凝らすとロケットの形になっていることが分かる。これは、アポロ計画で使用され、宇宙船を月軌道へと送り届けたサターンV ロケットを模したものである。筆者はロケットを正確に識別できる知見を持ち合わせていないが、実物のサターンV ロケットの写真と見比べる限り、ほぼ忠実に再現されているように思えた。また、一般的な針は平面的なつくりだが、この秒針は完全な円筒型である。斜めから見てもハリボテ感はなく、まるで月面にロケットが浮かんでいるような様子を楽しむことができる。もっとも、あまりにも小さいため、じっくりと鑑賞するためにはキズミが必須である。

 


ブラックセラミックス製ケース
 本作のケースは、ブラックセラミックス製である。近年、高級時計に使われることの多いセラミックスは、高い硬度と耐食性、抗アレルギー性を備えた素材だ。しかしながら製造や加工には高度な技術が要求される。セラミックスは、ジルコニウムなどの材料と結合剤を混ぜ合わせて成形し焼成することで製造されるが、焼成の際に体積が縮んでしまうため、わずかな寸法誤差も許されない部品に関しては、焼成時の環境や温度、時間を精密にコントロールしなければならない。さらに出来上がったセラミックスは非常に硬いため、仕上げを与えるにも一苦労だ。

 その点、本作ではクロノグラフウォッチとしての複雑なケース構造を持つにも関わらず5気圧防水を達成し、さらにポリッシュとヘアラインで仕上げ分けている。エッジもシャープに立っており、スピードマスター特有の精悍な印象が保たれている。同じくブラックセラミックス製のベゼルには、レーザーで彫り込んだ後にホワイトエナメルを流し込んだタキメータースケールが配されている。

 


 

ケースサイズは直径44.25mm。ポリッシュとヘアラインを使い分けたスピードマスターらしいデザインと仕上げをそのままに、耐傷性に優れるブラックセラミックスを採用している。
 ラバー製のストラップは、内部にイエローの層を挟んだ上でパンチング加工を施している。イエローのステッチとともに、ダイアルのカラーリングにマッチしたデザインだ。フォールディングバックルはチタンとセラミックスによって構成されている。

 ケースバックはスナップバック式のように見える。スピードマスターの多くはスクリューバック式であるが、セラミックスでは直接ネジを切ることが難しく、このような仕様になったのだろう。中央にはサファイアクリスタルが取り付けられ、内部のムーブメントを鑑賞することが可能だ。

 

プッシュボタンで簡単に開閉できるフォールディングバックル。剣先が飛び出ないため、見た目にもすっきりしている。

 

クロノグラフ特有のギミックを楽しめる手巻きムーブメント
 本作が搭載するCal.3869は、ざっくりと言えば現行のムーンウォッチが搭載するCal.3861にダーク サイド オブ ザ ムーン用の仕上げを施したものとして差し支えないだろう。メンテナンススパンを飛躍的に向上させたコーアクシャル脱進機と耐磁性に優れるシリコン製ヒゲゼンマイを搭載し、マスター クロノメーター認定を取得している。ルーツをたどればレマニア社製の古典的なクロノグラフムーブメントだが、そのスペックは現代におけるトップレベルだ。

 手巻き式であるため、ローターに阻まれることなく仕上げや動きを楽しむことができる。受けには月の裏側をモチーフとしたエングレービングが施され、ダイアルとの対比を成している。歯車やテンプにはグレー調のコーティングが与えられ、受けとの統一感のあるカラーリングだ。

 

月の裏側をモチーフとした仕上げを施したムーブメント。クロノグラフ特有の動きを楽しむことができるのも魅力。
 クロノグラフ機構の一連の動作をシースルーバックから鑑賞することができるのは、本作の大きな魅力だ。2時位置のボタンを押下すると、その動きがレバーを介してカムに伝わる。そのカムがキャリングアームをスライドさせることで、4番車とクロノグラフ輪列が中間車で連結され、クロノグラフが始動する。もう一度2時位置のボタンを押すと、今度は中間車による連結が解かれ、さらに4時位置のボタンを押下するとリセットハンマーが積算計の歯車を叩き、帰零させる。

 


直径44.25mmのケースは過大か?
 手巻きのスピードマスターについて、ケースサイズを懸念する声をよく聞くように思う。すなわち少し大きいのではないか、ということだ。カタログ値であれば、プロフェッショナルは直径42mm、ダーク サイド オブ ザ ムーンは44.25mm。確かに、決して小ぶりとは言えないサイズである。では、実際に大きいのだろうか.筆者は過去にプロフェッショナルを所有していたことがあるが、腕回り16.5cmの手首でさえ持て余している感覚はなかった。それは、今回レビューを行ったダーク サイド オブ ザ ムーンでも同じだ。本作のケースはプロフェッショナルに比べて大型だが、引き締まって見えるダークトーンで統一されているため、視覚的にコンパクトに見えるのだろう。しかしそれだけではない。

 

直径44.25mmという数値に対し、意外にも実際の腕乗りは良い。ちなみに筆者の腕回りは約16.5cmである。視認性は優れていると言いにくいが、本作のキャラクターを考えれば十分なレベルだろう。
 サイズを見る際に気を付けなければならないことがある。そのひとつは、ラグからラグまのケースの縦の長さである。プロフェッショナルであれば47.5mm、ダーク サイド オブ ザ ムーンでは50mmと、ケース径の割に比較的短い。ケースの縦が短ければ着用時に手首から飛び出るような印象にはなりにくく、細腕にも自然に溶け込みやすい。また、第4世代以降のスピードマスターが左右非対称のケースを採用していることも注目すべきだ。これは、NASAの要請によってリュウズガードを追加する際、ケースの側面を膨らませることで、ケースのデザインに一体化したリュウズガードを与えたためである。ブランドによって定義はまちまちだが、一般的な時計のケース径がリュウズガードを省いた数値で示されるのに対し、ミドルケースとリュウズガードの明確な境目が存在しないスピードマスターでは、それらを含んだ数値をケース径としている。ベゼル径で測れば、プロフェッショナルは約40mm、ダーク サイド オブ ザ ムーンでは約42mmであり、実態はカタログ値よりもやや控えめなサイズ感であることを留意しておきたい。細腕だからといって、スピードマスターを諦める必要はないのだ。

 サイズ感だけではなく、腕乗りも良い。ローターがないため裏蓋が薄く重心が低いことと、肉厚のラバーストラップがしっかりと手首に密着するからだろう。オメガの現行のフォールディングバックルは閉じた際に剣先が外側に出ないため、見た目にもすっきりとしている。

 

重心が低いことに加え、肉厚のラバーストラップがしっかりとヘッドを支えているため、長時間着用しても疲れにくい。強い衝撃が加わると割れる恐れがあるものの、傷が付きにくいのはセラミックスのメリットだ。
 視認性に関しては、残念ながら優れているとは言いにくい。インデックスは見やすいものの、複雑な構成のダイアルでは時分針がどこにあるのかを見つけるまでに少し時間がかかってしまう。とはいえ、リアルな月面をあしらったダイアルこそ本作の最大の魅力であり、視認性に重きを置くのであれば別のモデルを選ぶべきだろう。本作について視認性の点でケチをつけるのは野暮だ。

 


趣味性の高い、異色のスピードマスター
 手巻きクロノグラフというニッチなジャンルでありながら、高級時計の定番機として支持を得るスピードマスター。高級時計に興味を持ったばかりの方からマニアに至るまで、その実力を否定できる者はそういないだろう。一方、あまりにもメジャーであるということで入手することにためらいを感じる人や、飽きを感じる人も少なくないはずだ。ダーク サイド オブ ザ ムーンは、そんな人にこそふさわしいチョイスと言える。

 アポロ8号の偉業をたたえる月面モチーフのダイアルに、スモールセコンドとして機能する精密な仕上げのロケット、さらに艶やかで深みのあるブラックセラミックス製ケースは、プロフェッショナルでは決して味わうことのできない魅力を備えている。マスタークロノメーター認定を取得したムーブメントは、高い精度と耐磁性を発揮し、デイリーユースにも十分な性能を持つ。本作は、趣味性と実用性を高次元で両立させたモデルなのだ。

一部の時計愛好家たちは、大手ブランドではなくマイクロブランドに注目し始めている。

これまでの時計界では見られなかった発想に満ちたタイムピースが次々と登場し、主流ブランドに飽き足りないコレクターたちの好奇心を、大いに刺激しているのである。ボナムズ香港で時計部門ディレクターを務めるシャロン・チャンが、独立性と革新性にあふれた、マイクロブランドの魅力を紹介する。

大手に飽きたコレクターが注目、小さくとも強いマイクロブランド
腕時計ブランドが大手資本に買収されると、業績の安定を図るために新作の投入サイクルを短縮し、販売数の増加を狙うことが多い。しかしその結果、似たり寄ったりの腕時計が市場にあふれ、消費者はメインストリームのブランドに対して次第に飽きを感じるようになっている。こうした流れに反発する一部のコレクターは、個性ある小規模な独立系ブランド、いわゆる「マイクロブランド」へと関心を向け始めた。

カルティエ コピー販売おすすめ優良サイトマイクロブランドは目の肥えたコレクターも魅了
マイクロブランドは通常、生産本数が少なく、独立性と革新性を重視する。ラグジュアリーさを誇示せず、複雑機構を追求するわけではない。さらに、流行に迎合するということもない。筆者が最近参加した時計愛好家の集まりで、複数の参加者がマイクロブランドの腕時計を披露していた。その中でも、ジャンピングアワー機構とマラカイトの文字盤を備えたゼンティアの「ソテー」が特に注目を集めていた。

この集まりに参加したコレクターは、グランソヌリ、スプリットセコンドクロノグラフ、トゥールビヨンなど複雑機構を搭載した名品を数多く所有しており、普段はなかなか目にする機会の少ない独立時計師の作品すら買い集めている。そうした猛者たちが、価格にして8000香港ドル(約14万9120円、1香港ドル=18.64円、2025年5月17日現在、以下同)ほどで発売されていたゼンティアのソテーに対しても、名だたる高級腕時計に劣らぬ愛着を示していたのだ。

魅力的な価格の手頃さ
マイクロブランドがここ数年で時計界において急速に人気を高めたのには、いくつかの理由がある。まず挙げられるのは、価格の手頃さだ。経済的に余裕のある時計愛好家であっても、購入にはやはり慎重になる。マイクロブランドは比較的低価格で、十分に他ブランドにはない新鮮な感覚を楽しめる点が魅力だ。

また、コロナ禍明けで人々が旅行に出かけるようになり、旅先で気に入った腕時計を見つけた際、マイクロブランドであれば入手しやすく、持ち歩く際の安全面でも主流ブランドほど気を使わなくて済む。さらに、転売時の損失をあまり心配せずに済むという安心感もあるだろう。

コレクターの好奇心をかき立てる自由な発想
価格面以外にも、マイクロブランドのデザインは、時として独立時計師の作品以上に突き抜けた独創性を持つことがある。独立時計師が尻込みするか、もしくは軽視するような奔放な意匠や機構の組み合わせも、マイクロブランドであれば思いのままに表現することが可能だ。この自由さこそが、主流ブランドに飽きたコレクターの好奇心をかき立てるのである。

加えて、こうしたハイエンド層の多くは、人と被らない腕時計を求める傾向にあり、限定生産を基本とするマイクロブランドは、そのニーズにぴたりと合致する。

高級時計市場でも「個性」を重視か

ミン「20.11 モザイク」Ref.2011M
自動巻き(Cal.ASE200.2)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約86時間。Tiケース(直径41.5mm、厚さ14mm)。50m防水。6万1440香港ドル(約114万4282円、バイヤーズプレミアム含む)にて落札された。
この新たな潮流は、腕時計のオークション市場にもすでに表れている。たとえば香港のボナムズでは、昨年開催された腕時計オークションでマイクロブランドの姿が確認された。マレーシア・クアラルンプールとスイスのラ・ショー・ド・フォンを拠点とするブランド、ミンの「20.11 モザイク」と、日本のクロノブンキョウトウキョウの「カランドリエ Type 1」である。この2本はいずれも事前の予想を上回る価格で落札され、いまや高級時計市場が単なる資産価値だけでなく、「個性」を重視するようになってきたことを物語っている。

クロノブンキョウトウキョウ「カランドリエ Type 1」
自動巻き(MIYOTA Cal.9122)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径38mm)。5気圧防水。数量限定。2万4320香港ドル(約45万3713円、バイヤーズプレミアム含む)にて落札された。
きめ細かなオーダーが可能なブランドも
「個性」という観点からすると、マイクロブランドはもうひとつの強みを持つ。それは、定型や伝統に縛られることがなく、極めて自由なオーダーが可能であるという点だ。インデックスや針の形状から、文字盤やケース素材に至るまで、きめ細かくカスタマイズでき、文字の刻印まで対応することも珍しくない。

このようなデザインの柔軟性は、ブランドと購入者との直接的な対話とつながりを生み、結果としてブランドに対するロイヤルティーを高めている。

SNSがマイクロブランドの追い風に
さらに、SNSの普及もマイクロブランドの成長を後押ししている。ユーザー自身の発信によって、潤沢なマーケティング予算を持たなくとも、ブランドの理念や個性を効率的にターゲット層に届けることが可能となった。

マイクロブランドに注目すべし
世界経済が減速する中にあって、マイクロブランドは新たな時代の波に乗る存在として頭角を現しつつある。手頃でありながら個性あふれるその魅力は、今後も決して見過ごすことはできないだろう。

著者「シャロン・チャン」プロフィール
シャロン・チャンは、アジアにおけるボナムズ時計部門のディレクターである。香港を拠点に、アジア太平洋地域の事務所と密接に連携し、同部門が年に10回開催するオークションの監督を務めている。

シャロン・チャン/ボナムズ香港 時計部門ディレクター
シャロン・チャンは、ボナムズに入社し、オークションビジネスに復帰する前の2017年から18年の間に、個人でウォッチディーラーとクライアントコンサルタントを行い、専門家としてのキャリアを築いた。その豊富な経験から、世界中のコレクターとの間に強力なコネクションを持ち、アジアにおける腕時計市場拡大において重要な役割を担っている。


これまで多くの国際的なオークションハウスでのジュエリーと時計のオークションビジネスにおいて、17年以上の経験を積み、2011年から16年にかけては、香港で時計オークションを指揮。売り上げを年々拡大し、13年にはアジアでの時計販売で最高額を達成した。また、世界最大級のプライベートウォッチコレクションの監督責任者を務め、15年のオークションで600万USドルという新記録を打ち立てた。

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