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タグ・ホイヤーが、ソーラーパワーで動く“ソーラーグラフ”の最新モデルを発表した。

2022年のアクアレーサー 200 ソーラーグラフ 40mmの発売と、2023年の魅力あふれるチタン製40mmモデルの発売に続き、タグ・ホイヤーはLVMHウォッチウィークで中型サイズのアクアレーサー プロフェッショナル 200 ソーラーグラフを5バージョン発表した。いずれもスティール製ケースで、それにマッチするブレスレットがセットされている。

 ケース径34mm、厚さ9.7mm、ラグからラグまでが40.6mmの新しいソーラーグラフは、クラシックなブルー、タグの“ポーラーブルー”(海の泡のようなカラーリング)、マザー オブ パールの文字盤を備えた3つのバージョンから選ぶことができる。MOPのトリオには、従来のロジウムインデックス、ダイヤモンドインデックス、ダイヤモンドインデックスとダイヤモンドベゼルを備えたモデルがある。

Tag heuer solargraph 34mm
 従来のソーラーグラフ 40mmと同様に、新しい34mmモデルには、ラ・ジュー・ペレが開発したタグ・ホイヤー独自のソーラームーブメントを採用。このムーブメントはTH50-01と呼ばれ、3針の時刻と日付表示、最大10カ月のパワーリザーブを備えている。アクアレーサーの名にふさわしく、サファイアクリスタル風防、逆回転防止ベゼル、ねじ込み式リューズ、200mの防水性を確保している。

 価格は、ブルー&ポーラーブルーダイヤルともに26万9500円。ソーラーグラフ初となるマザー オブ パールだと価格が上がり、従来のダイヤルが29万7000円だ。ダイヤモンドも欲しいって? ダイヤモンドがインデックスにセットされたものは37万4000円、そこにダイヤモンドベゼルを追加すると62万7000円(すべて税込)になる。

我々の考え
34mmは自身の手首には少し小さいと思うかもしれないが、それほど驚くことではない(チタン製のソーラーグラフ 40mmのほうが似合いそうだ)。ただこれはタグ・ホイヤーの素晴らしい行動だと思う。高スペックの小ぶり(37 mm以下)ダイバーズウォッチの選択肢は限られている。タグ・ホイヤーはクォーツムーブメントを含め、日常使いのスポーツウォッチを小ぶりサイズで製造してきた長い歴史がある。

Tag heuer solargraph 34mm
Tag heuer solargraph 34mm
Tag heuer solargraph 34mm
 かつてドクサが小ぶりダイバーズを製造していたし、シチズンは現在でも製造している。そして今では、特にマザー オブ パールやダイヤモンドに特別な価値を見出す購入者がいれば、タグ・ホイヤーとの競争が激化している。

 確かに、34mmの自然なセグメントは女性になると思うが、この34mmはマーク(・カウズラリッチ)の手首に装着しても極端に小さくは見えなかった(彼はこの記事のために写真を撮り下ろした)。もし40mmのソーラーグラフが手首に対して少し大きいと感じた人は、34mmケースのほうがいい解決策かもしれない(チタンからSSに変わっても問題なければ)。

Tag heuer solargraph 34mm
 新しいソーラーグラフ 34mmは、LVMHウォッチウィークで発表されたほかのモデルほど派手ではないかもしれないが、クールなブルーダイヤルモデルはどちらも25万円を少し超える程度の価格であり、細い手首にフィットする負担のかからないダイバーズウォッチを探す現実主義者の購入者にとっては魅力的な製品である。

基本情報
ブランド: タグ・ホイヤー(TAG Heuer)
モデル名: アクアレーサー プロフェッショナル 200 ソーラーグラフ(Aquaracer Professional 200 Solargraph)
型番: WBP1311.BA0005(ブルーダイヤル)、WBP1315.BA0005(ポーラーブルー)、WBP1312.BA0005(MOP)、WBP1313.BA0005(MOPとダイヤモンドインデックス)、WBP1314.BA0005(MOPとダイヤモンドインデックス&ベゼル)

直径: 34mm
厚さ:9.7mm
ラグからラグまで: 40.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブルー、ポーラーブルー、マザー オブ パール(MOP)
インデックス: ロジウムプレートのアプライドバーまたはダイヤモンド
夜光: スーパールミノバ®
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: センターリンクがポリッシュ仕上げのSS製ブレスレット(コンフォートリンクエクステンション付きダブルセーフティーフォールディングバックル)

Tag heuer solargraph 34mm
ムーブメント情報
キャリバー: TH50-01(ラ・ジュー・ペレとのコラボレーションによる独自ムーブメント)
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示
パワーリザーブ: 約10カ月(40時間未満の充電で完了)
巻き上げ方式: ソーラー充電
クロノメーター: なし
追加情報: ソーラー駆動、5年保証

価格 & 発売時期
価格: ブルー&ポーラーブルーダイヤルともに26万9500円、従来ダイヤルのMOPが29万7000円、MOPのダイヤモンドインデックスが37万4000円、MOPのダイヤモンドインデックス&ベゼルが62万7000円(すべて税込)
発売時期: ブルーと従来ダイヤルのMOPとMOPのダイヤモンドインデックスが2024年2月、ポーラーブルーが2024年4月、MOPのダイヤモンドインデックス&ベゼルが2024年6月(すべて予定)
限定: なし

ヴィンテージパテック フィリップのなかでも特に希少な3針モデルをご紹介。

あなたは間違いなく自動巻きのRef.2526を知っているだろうが、ブラックダイヤルにゴビ(Gobbi)のサインが入ったものは見たことがないだろう。そして、エドモンド・ヒラリー(Edmund Hillary)がエベレスト制覇の際着用していたのと同じタイプの特大サイズの、そしてタペストリー文字盤を備えた素晴らしいロレックス プレ・エクスプローラーも登場。さらに、ジャガー・ルクルト、モバード、L.ルロワ(L. Leroy & Cie)などの珍しい時計も揃えた。

パテック フィリップ カラトラバ Ref.2526、超レアなブラックダイヤル仕様
Patek Philippe Calatrava 2526
 驚くべきRef.2526は、1953年に発表されたパテック フィリップ最初の自動巻き時計だったと言われるモデルだ(少なくとも、最初のうちのひとつ)。オリジナルのブラックダイヤルは、このリファレンスでは非常に希少である。ここでオリジナルという言葉を強調しているのは、あとから交換されたものではなく、オリジナルのエナメルダイヤルが真に望まれているからだ。ブラックダイヤルには、第1世代ダイヤル特有のインデックスが配されているためご安心を。そして6時位置のすぐ上には、非常に特別なサインが記されている。そう、そこにある1行の“Gobbi Milano(ゴビ・ミラノ)”というテキストがすべてを物語る。この時計は、ゴビがサインした唯一のブラック文字盤の2526だと考えられている。オークション会場を沸かせるような個体だ。これ以外のディテールとして、以前ポリッシュされた形跡があるものの、はっきりとわかるホールマークが健在。このイエローゴールドのケースが、素晴らしいコンディションを保っていることがわかる。

Patek Philippe Movement 2526
 ヨーロッパの販売店、Iconeekがこの特別な2526を、掲載時点で約23万5000ドル(当時の相場で約2733万円)で提供していた。

ジャガー・ルクルト “スノードロップ” Ref.E877
Jaeger-LeCoultre 'Snowdrop'
 メモボックスはジャガー・ルクルトの象徴的な時計のひとつで、この“スノードロップ”モデルは1950年初頭の発売以来、さまざまな形やスタイルで登場したことを思い出させてくれる。Ref.E877のオーバルケースは、間違いなく1970年代のものである。およそ2000本が製造され、この時代の時計、特にブラックダイヤルは一般的ではない。43mmのケースは一見すると巨大に見えるかもしれないが、ラグがないため手首の上に装着すると控えめなサイズに見える。以前の自動巻きメモボックスモデルがバンパー式であったのに対し、これに搭載される自動巻きCal.916は、より現代的なローターを備えている。

 このおもしろいジャガー・ルクルト メモボックスは、Matthew Bainのサイトで4950ドル(日本円で約58万円)にて販売される。

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ロレックス プレ・エクスプローラー “オヴェトーネ” Ref.6298
Rolex 'Ovettone' 6298
 ロレックスのRef.6098と6298は、のちのエクスプローラーのいくつかの特徴、特に36mmというケースサイズがマッチしているため、“プレ・エクスプローラー”モデルとして認定されることが多いが、文字盤にはまだエクスプローラーの名は記されていない。初期のバブルバックの流れを汲む、ドーム型のケースバックを備えており、また1953年にヒラリー・エドモンド卿の手首に巻かれてエベレストの頂上に登ったことでもよく知られている。信じられないほどのタペストリー文字盤が、この時計の大きな魅力であるのは明らかであり、完璧なラジウムドットとアプライドインデックスもそのまま残っている。さらに、ブレスレットにエンドリンクがないことにも注目してほしい(これらは1954年にロレックスが特許を取得したもので、すぐにエクスプローラーに採用されたわけではない)。この時計が1953年に製造された一方で、ブレスレット(少なくともクラスプ)には1956年という刻印があるため、これはあとから追加されたものかもしれない。ときには少し隙間が生じることもあるが、私には少し長いように思える。予想どおり、この自動巻きムーブメントは1955年まで生産された、初期のデイトジャストやサブマリーナーにも搭載されていたCal.A296である。

Rolex movement A296
 イタリア人ディーラー、エルヴィオ・ピヴァ(Elvio Piva)氏が、この素晴らしいロレックスを掲載時点で約1万7900ドル(当時の相場で約208万円)で出品していた。

モバード スーパーサブシー300
Movado Super Sub-Sea 300
 このモバードのコンディションは、今日紹介しているほかの時計には遠く及ばない。しかし、1970年代のダイバーズウォッチとしては非常にクールであり、両方向回転するベークライトベゼルと、非常に読みやすい文字盤を備えている。本モデルは、今見ているブラックとダイバーの大好きなオレンジの2色で展開していた。搭載される自動巻きムーブメントはゼニスのCal.2552 PCをベースにしている。当時、この両ブランドは同じ傘下にあったのだ。時計の写真はもっとわかりやすいものでなければならないが、いずれにせよ、まともな時計であることには間違いない。唯一の大きな問題は、秒針に施された奇妙な夜光塗料だ。ただインデックスの焼けたトリチウムとよく調和している。

 eBayの出品期限は切れており、記事執筆時の入札はまだ900ドル(当時の相場で約10万円)を下回っていた。

L.ルロワ クロノグラフ
Leroy& Cie Chronograph
 このエレガントなクロノグラフを最初に見たとき、文字盤にはパテックやヴァシュロンと書かれているのを想像するかもしれない。ただしよく見ると、1940年代から50年代のファッショナブルなパリジェンヌの注目を集めてブレゲと競った、L.ルロワによってつくられたことがわかる。35mmサイズのこのクロノグラフは、パテックのクロノグラフ Ref.1579 “スパイダー”シェイプをほうふつとさせる、派手なラグを装備し、またアプライドインデックスが文字盤に見事なバランスをもたらしている。内部には信頼性の高いValjoux 23が収められ、出品者は素晴らしいコンディションだと説明している。

Leroy& Cie Chronograph movement
 フランス在住のコレクターがこのL.ルロワ クロノグラフを、掲載時点で約7280ドル(当時の相場で約85万円)にて販売していた。

ジャガー・ルクルトは1940年代から1970年代初頭までレベルソを製造していなかった。

今では考えられないことだが、最近ではJLCがレベルソの90周年を祝い、昨年ニューヨークでユニークなリバーシブルウォッチに特化した展示会を開催した。しかし何十年ものあいだ、それはメーカーの歴史のなかでほとんど忘れ去られた存在として放置されていた。

 その状況が一変したのは、1972年に当時ジャガー・ルクルトのイタリア代理店だったジョルジオ・コルヴォ(Giorgio Corvo)がル・サンティエのメーカーを訪問したときだ。

corvo reverso jaeger-lecoultre
25年近く、ジャガー・ルクルトはレベルソを製造していなかったが、70年代に入るとこの時計の状況は一変した。

 ジョルジオの孫であり、現在はイタリアにある高級な独立系販売店、“GMTイタリア”を経営するヤーコポ・コルヴォ(Jacopo Corvo)氏はこう話す。「祖父(ジョルジオ)のコルヴォは製造メーカーに行きました」。話によると、祖父のジョルジオがメーカーの引き出しを開けた際、ジャガー・ルクルトが1948年に製造を中止して以来存在を忘れていた、200本のステイブライトスティール製(初期のステンレス合金)のレベルソケースを発見したという。

「祖父が“レベルソは必要だ”と言っていました」とコルヴォ氏は説明する。「当時、マーケットがメゾンに何かをつくってもらうよう依頼するのはごく普通のことでした」。イタリアの代理店から依頼されたオーデマ ピゲのロイヤル オークは、おそらくその最も有名な例だろう。

vintage 1940s jaeger-lecoultre reverso
1940年代の初期のレベルソで、ポロの生産が終了する前の個体。

「その場面を想像してみて欲しい」とコルヴォ氏。「1972年は完全なるクォーツショックのときです。スイスのブランドは次々と衰退し、廃業していきました。みんなクォーツ式のセイコーを買っていたのです」

 特に第2次世界大戦後、レベルソのようなレクタンギュラーウォッチは買い手の人気を失い、JLCは40年代後半に生産を停止した。しかしそれらの古いケースを発見したコルヴォはジャガー・ルクルトに、イタリアで販売したいがためにレベルソを復活させるよう働きかけ続けた。JLCは特に反転可能なレベルソケースの製造がいかに難しいかを知っていたため抵抗した。

 ジャガー・ルクルトのプロダクト&ヘリテージ・ディレクターであるマシュー・ソーレ(Matthieu Sauret)氏は、「コルヴォがイタリアに持ち帰ったケースはひとつかふたつです」と説明する。アフターサービスを請け負う時計職人や技術者を抱えていたコルヴォは彼らに仕事を振った。1年後、時計職人たちは古いレベルソケースに小さな楕円形ムーブメントのJLC製Cal.840を取り付けるムーブメントホルダーを製作した。その後、コルヴォはこの試作品をジュウ渓谷に持ち帰った。

corvo reverso jaeger-lecoultre
コルヴォ レベルソはグレーとホワイトの2種類で展開。それぞれ100本ずつ提供された。

「スイスの時計職人たちは、イタリアの時計職人が何かを発見していたのに自分たちがそれを理解していなかったことに少し腹を立てていました」とソーレ氏は言う。そこからジャガー・ルクルトはコルヴォのシステムを工業化し、ル・サンティエで発見した200個のケースを用い、レベルソを通常生産できるようにした。

 “コルヴォ レベルソ”のために、“ジャガー・ルクルト”のサインが入った美しいホワイトまたはグレーダイヤルにローマ数字という新しい文字盤もデザインされ、それぞれ100本生産された。特にローマ数字とグレーダイヤルは、ほかのレベルソとは一線を画すデザインであった。

 ヤーコポ・コルヴォ氏は、「200本のレベルソを3カ月以内にすべて販売しました」と話す。ヤーコポ氏によると、ほんの数年前までJLCの時計は年間200本ほどしか売れなかったという。またジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)やジャンニ・アニェッリ(Gianni Agnelli)など、ミラノで最も著名なVIPの何人かがコルヴォのレベルソを購入したという伝説もある(それを証明する写真を見たことがないが)。

corvo reverso jaeger-lecoultre
40年代製のコルヴォ レベルソケースは、初期のSS合金である“ステイブライト”スティールであり、サイズは38×23mm。

 コルヴォ レベルソが成功したあと、ジャガー・ルクルトはすぐにレベルソを世界中で再デビューさせるために取り掛かる。その後コルヴォは1975年まで生産された。その後数年間、ジャガー・ルクルトはレベルソの新しいケース製造に取り組んだ。それはオリジナルよりも複雑であり、防水性も備わっていた。

 真のレベルソブーム到来は、1980年代に登場した大型のレベルソケース、“グランド タイユ”がきっかけである。

 その後、1990年代はレベルソの黄金時代となった。1991年、レベルソ誕生60周年を記念して、JLCはレベルソに初めて機能を搭載した。最初に登場したのは60 ème(60周年記念)で、パワーリザーブインジケーターと特徴的な日付表示を持つ、金無垢ムーブメントのグランド タイユ レベルソであった。

「60周年記念モデルは私のお気に入りのレベルソです。すべてを変えた1本です」とヤーコポ氏は私に語ってくれた。

1990s complicated jaeger-lecoultre reversos
1990年代に黄金期を迎えた、コンプリケーションレベルソ6本を詰めたボックスセット。

 その後の10年間、JLCはパワーリザーブ、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、クロノグラフ(昨年のヘリテージ レベルソ クロノグラフのベースモデル)、ジオグラフィック、パーペチュアルカレンダーという6つの“伝統的なコンプリケーション”それぞれを搭載した、6本の限定レベルソを生産した。それぞれ500本限定のこの複雑なレベルソは、特にイタリアでヒットした。

 コルヴォ氏は「イタリアは多くの時計ブランドにとって、世界最先端のマーケットであり、イタリア市場は多くのブランドが今日のような地位を築くのに役立ちました」と話す。「非常に成熟した市場だったのです。人々は1940年代から50年代にかけて、同市場で時計を収集しました。そしてそれは時間を読むためだけではなく、ファッションの一部でもありました。彼らは今日の時計コレクターの先駆者なのです」

 その間、ジャガー・ルクルトには多くの熟練時計師が在籍し、輩出をしていた。最初はフィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏、そしてエリック・クドレ(Eric Coudray)氏やマックス・ブッサー(Max Büsser)氏のような伝説的な時計師が登場し、さらにギュンター・ブリュームライン(Günter Blümlein)がこの時代の大半をリードしていた。レベルソが復活したこの時代については、別の記事にする価値があるだろう。

コルヴォ レベルソ収集の現在
corvo reverso jaeger-lecoultre
(コルヴォ レベルソは)最も複雑というわけではないが、歴史的に最も重要なレベルソのひとつであることは間違いない。

長いあいだ、コレクターはコルヴォ レベルソの背景にあるストーリーを知らなかった。だが2021年、イタリアのWatch Insanityがジョルジオの息子 (ヤーコポ氏の父親)であるミシェル・コルヴォ(Michele Corvo)氏の素晴らしいインタビュー記事を掲載したことで、状況は一変した。リシュモンがジャガー・ルクルトを買収した直後、コルヴォファミリーはイタリアでの同ブランドの流通を止めて、インディーズに軸足を移し、F.P. ジュルヌ、MB&F(ブッサー氏がJLCに在籍していた頃をよく知っていた)など、彼らを初期から支えていた。

 しかし今日でもコルヴォ レベルソで検索すると、ローマ数字ダイヤルを持つコルヴォ レベルソ唯一の画像がヒットする(この記事に掲載している)。ここ数年、コルヴォファミリーやこの物語、レベルソの復活におけるこの時計の役割について言及されることなく、いくつか販売されているのを目にすることがある。

 コルヴォ レベルソ自体が過小評価されているのか判断するのは難しいが、ストーリーが過小評価されているのは間違いない。多くの人はこの時計がどんなもので、ジャガー・ルクルトの歴史にとってどれだけ重要なものなのかを知らないのだ。確かにコルヴォモデルのあと、JLCは80年代~90年代にかけてより印象的で複雑なレベルソを製造した。しかし、コルヴォはレベルソを文字どおり再生させた時計であり、これまでに200本しか生産されていないのだ。

corvo reverso jaeger-lecoultre
コルヴォ レベルソのストーリーはほとんど知られていなかった。

corvo reverso jaeger-lecoultre
2021年、イタリアからその重要性を強調する記事が出るまでは。

 実際、これらのケースの性質上(忘れてはならないのは、1940年代製のケースはステイブライトスティール製であった)、長い年月のあいだにディーラーがコルヴォダイヤルをその時代に適した文字盤と交換した可能性さえある。なお私が見た数少ないコルヴォ レベルソのシリアルは467xxxで始まっている。

 レベルソの持つアール・デコと美しいサーモン文字盤、スケルトンムーブメントを除けば、コルヴォは私のお気に入りのレベルソになる。ローマ数字文字盤は美しく、コルヴォにはほかの多くのレベルソにはないヴィンテージカルティエに匹敵する優雅さを与えている。

 しかしそれ以上に、コルヴォ レベルソのストーリーとその歴史的な重要性が、たとえブランド自身がそのアイデアに懐疑的であったとしても、私がジャガー・ルクルトウォッチのなかで最も好きな時計のひとつにしている理由なのだ。

コルヴォ レベルソの物語を語る上で協力してくれたヤーコポ・コルヴォ氏とマシュー・ソーレ氏に感謝する。

目の肥えた愛好家のなかで、静かな話題となっている時計がある。

時計師やジャーナリストなど関係者が投票を行うことから、“時計界のアカデミー賞”とも呼ばれるジュネーブ時計グランプリ(GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE、以下GPHG)。時計界の最高権威とされるこのアワードには、2000スイスフラン(約34万円)以下の時計を対象とするチャレンジウォッチ部門があり、

「レイモンド・ウェイルは、時計職人であった私の祖父が、ジュネーブにて1976年に創業した独立ブランドです。ロレックス コピー創業から現在まで家族経営を守っており、私が三代目です」と語るのは、現在CEOを務めるエリー・ベルンハイム氏で、2014年に経営を引き継いだ。

レイモンド・ウェイルは、1000ドルから5000ドルという“手の届きやすい価格”を重視している。すなわち多くのユーザーが渇望する価格帯だ。世界80ヵ国に進出しており、アメリカとイギリスが主要市場。かつて行われていたバーゼルワールドではメインホールの1Fに大きなブースを構えていたことからも、スイス時計業界における地位も相当高いことがわかる。日本ではまだ“知る人ぞ知る”というポジションだったが、このミレジムによって、ついにミドルレンジの注目ブランドとして一気に名を上げそうな予感がする。

 フランス語でヴィンテージの意味を持つ「ミレジム(Millésime)」の企画がスタートしたのは、約3年前だという。「ブランドをさらに成長させるための時計を求めていました。美しく、洗練され、エレガントでちょっとレトロで、もちろん手の届きやすい価格の時計をつくりたいと考えました。掲げた条件は多いのですが、つまりは“伝統的なスイス時計”ということです」

 スタッフやデザイナーとミーティングですぐに進むべき方向性は定まり、デザインも第一案を採用した。それくらい明確なビジョンが彼のなかにあったということだが、これは親子代々受け継がれている資質のようだ。「祖父からの教えは、自分がやっていることに確信が持てない場合は、その先に成功はないということ。新しい製品を開発する際には必ずプロトタイプをつくりますが、どうしても腑に落ちないのであれば、直感を信じて立ち止まることも必要。これが祖父からの大切な教えです。父からの影響は、仕事に対する情熱ですね。父は本当に仕事中毒で、1日20時間くらい働いていましたし、土日も休まなかった。しかしそのおかげで、私は父と一緒に工場やデザイナーのところを回ることもできましたし、幼少期からバーゼルワールドに出入りできましたから」

 家族経営だからこそ、信念はぶれず情熱は受け継がれる。その結果が、このミレジムなのだろう。

レイモンド・ウェイルのミレジムコレクションにはスモールセコンドとセンターセコンド2種類のラインナップがある。(Courtesy of Raymond Weil)
 ミレジムが時計愛好家から称賛された理由は、シンプルでピュアなデザインにあるだろう。モデルは2種類あり、GPHGで賞を獲得したのがスモールセコンドタイプで、ほかにセンターセコンドタイプもある。時分秒の目盛りをそれぞれ異なるトラックに配置するデザインは「セクターダイヤル」と呼ばれており、1930年代に流行した。このレトロなムードに合わせて、ケースサイズは39.5mm。大きすぎず、さりとて小さくもないという絶妙なサイズ感にまとめた。



 ダイヤルはかなり複雑な構成になっており、スモールセコンドから外側に行くにつれて段階的に高さが上がっていく。そして最も外側のミニッツトラックは外に向かって傾斜をつくる。それぞれのセクターごとに仕上げを変えているので、同トーンの配色であっても美しいハーモニーが生まれている。

 風防はボックスガラスになっており、ケースサイドは鏡面仕上げと繊細な筋目模様の組み合わせを取り入れた。ラグもすらりと長くデザインされており、全体のプロポーションも美しい。ケースの厚みはスモールセコンドモデルが10.25mmで、センターセコンドは9.25mmと十分に薄型といえるだろう。搭載ムーブメントは、セリタベースのCal.RW4251となる。仔細に見れば見るほど支払ったプライスに対して多くのものが得られるように感じる。

 「私たちの価格ポジショニングは1000ドルから5000ドルです。自分たちをもっと上のプライスゾーンであるかのように偽ることはしません。私たちは私たちなのです。そして、だからこそ持っているノウハウがあります。何をどのくらいで開発することができるのか。レイモンド・ウェイルは、常にこの価格帯で実現できる最高のものを目指しています。これも成功の理由のひとつだと思います」

Courtesy of Raymond Weil
 2023年のGPHGにて、チャレンジウォッチ部門を受賞したことは、エリー・ベルンハイム氏にとっても大きなターニングポイントとなった。「受賞が決まった瞬間は、会社やチーム、そしてすべてサプライヤーへの感謝の気持ちでいっぱいでした。それと同時にやってきたことに間違いがなかったという確信も得られました。私は2014年からCEOに就任しましたが、いつだって一貫性を強く信じてきました。そのひとつが、手の届きやすい価格で洗練された時計をつくることであり、ミレジムの成功が、自分たちのビジョンが正しかったという証明になるでしょう」

 しかしこの成功に、安住することはない。「レイモンド・ウェイルは、まもなく創立50周年を迎えます。50年というのは、時計業界ではまだ“若い”とされますが、人間でいえばマチュアな年齢。成熟した魅力も必要です。そういうタイミングで、ミレジムをリリースできたことは喜ばしいこと。ミレジム・コレクションは、おそらく私たちのブランドの足跡を記すに最高の方法だと思います」

 そして50年、100年と会社が続いていくことを願う。「会社の独立性を保ち続けること。そしていつか四代目にバトンを渡すこと。それが私にとっての最終目標になるでしょう。私は野心家ですが、会社が急成長することは好みません。時計業界に革命を起こすことなど考えていませんし、ゆっくりと成長すればいいのです」
 ファミリービジネスの良さは、地に足の着いたやり方で時計作りを進めていけることにある。レイモンド・ウェイルはミレジムの成功によって、愛好家から注目を集める存在になった。しかしその成功体験に奢ることなく歩みを進める。「今年のWatches & Wondersにも期待してください」と笑うエリー・ベルンハイム氏は、確かな自信をにじませていた。

ブランド誕生から50周年を迎え、クレドールが新たな幕を開けた。

第1弾として選ばれしは、新しいクレドール ゴールドフェザー。かつて世界最薄を誇ったムーブメントを搭載した薄型ドレスウォッチだ。ラグジュアリースポーツが全盛のいま、新たなドレスウォッチはどこを目指すのか?

ゴールドフェザーの歴史とは、すなわちセイコーの薄型メカニカルの原点であり、いまもその象徴である。始まりは1950年代。日本の時計産業が戦後復興から再び活気を取り戻し、世界を目指した時代だ。

当時、品質と機能の実証としてまず求められたのは精度だった。国内でも国産時計品質比較審査会が開催され、さらにその先にはスイス天文台クロノメーターコンクールがあった。こうした高精度を追求したのがグランドセイコーだ。そしてその一方で対抗軸にあった薄型を追求したのが、セイコー ゴールドフェザーである。何故、薄型が重視されたのか。それは精度と同様に技術力のアピールだったから、とセイコーウオッチの商品企画、神尾知宏氏は言う。

50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル(写真右)と、そのダイヤルのモチーフになったゴールドフェザーを源流にする1970年代の「セイコー特選腕時計」の薄型ドレスウォッチ(写真中。コレクター所蔵品)。当時はこれと同じダイヤルとムーブメントを用いた提げ時計(写真左。セイコー ミュージアム 銀座所蔵)もあった。

「薄型化は、高度な設計と製造、さらに組み立てや調整の匠の技能が合わさった総合的な技術です。当時、世界に誇る製品を目指し世に送り出そうと高まる気運がグランドセイコーとセイコー ゴールドフェザーに注がれ、とくに後者が搭載したCal.60は、中3針の手巻き式で当時世界最薄の2.95mmを実現したことで、精度と並ぶセイコーの技術力の象徴となりました」

 その開発思想は継承され、1969年に2針化した1.98mm厚のCal.6800(Cal.68系)として結実した。搭載したのが名機、セイコー U.T.D.(Ultra Thin Dress)だ。このCal.68系は、その後もアップデートを重ねながら、クレドールを代表する薄型ムーブメントとして今なお進化を続ける。
 いわば精度が数値化される技術であるのに対し、薄さはよりフィジカルに即した技術といえる。前述した総合力に加え、デザインにも視覚に訴える薄さの演出がなされた。外装設計担当の石田正浩氏が解説する。

 「(オリジナルのゴールドフェザーは)薄型ムーブメントに加え、ケースをより薄く見せるため、風防を切り立てる一方で、サイドを薄く仕上げていました。さらに裏蓋をすり鉢状にして肌との接触面を減らし、薄く感じるようにしていたのです。ラグも正面は極力細くしていますが、見えない側面や根本を厚くすることで強度と耐久性を与えていました」

 新開発の薄型ムーブメントを始め、こうした細部にいたるまで多くの創意工夫を盛り込み、オリジナルのゴールドフェザーは完成した。羽根のような美しさと触れた時の軽やかさを目指した、その名にふさわしい薄型ドレスウォッチだったのだ。

ブランド創成期の薄型ドレスをオマージュした、新時代のゴールドフェザー U.T.D.

セイコー ゴールドフェザーは1960年の誕生から、その役割を1969年に登場した高級時計コレクション「セイコー特選腕時計」へと引き継いでいった。そして1974年に「セイコー特選腕時計」はセイコーの上位ブランドのひとつとして独立。それが現在のクレドールである。ブランド誕生50周年を記念して今年発表されたクレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデルでは、70年代当時の薄型ドレスウォッチのダイヤルをモチーフとした。

クレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデル GCBY995

1974年のオリジナル。
 限定モデルのデザインのもととなったオリジナルは、ケースとラグが一体化したシェイプの正面をフラットに仕上げ、切り立ったボックス状の風防をベゼルリングが囲む。裏蓋は縦方向の平面からサイドラインに向かって傾斜をつけ、薄さをより演出していた。これに対し、限定モデルはボンベダイヤルをケース全面に広げ、初代セイコー ゴールドフェザーを範に取る全体に柔らかで優美なフォルムだ。ラグはテーパーをつけ、面取りしたモダンなスタイル。シースルーバック仕様にも関わらず、8mmという薄さを実現したのは新開発のケース構造にある。
 「当時は非防水(編注;ゴールドフェザーのオリジナル)でしたが、日常生活防水にするためにはパッキンなどでのシーリングが必要で、そのため本来ムーブメントの周囲にある中枠をケースと一体化しました。さらにボンベダイヤルの採用には、ケース内側の底部をコンマ数ミリレベルですり鉢状にし、中枠を省いても強度を担保し、収納位置もより下げたのです」(石田氏)

50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル

GCBY995 121万円(税込)

ケースにはステンレススティールを採用する。これも1979年にクレドールがそれまでのプレシャスメタルからSSを採用し、より多様性のあるドレスウォッチとして独立ブランドになった経緯を踏まえれば、記念限定らしいオマージュなのである。世界限定100本。4月19日(金)発売予定。
 中枠のケース一体化には、加工を含め新たな作り方やプロセスも開発したという。これも手作りに近いクレドールだからこそできたといえる。

 最大の特徴であるダイヤルは、横ストライプに雪氷のようなテイストを施したオリジナルに対し、限定モデルではボンベ形状に繊細な和紙や絹糸を思わせるテクスチャー感で仕上げる。そして共通する極細のローマ数字のインデックスについて神尾氏はこう説明する。

 「これは当時の印刷技術を現代的に継承するべく復活させました。プリントは交差部分や角ほど印刷がつぶれやすく(インクが溜まりやすいため)、それを想定したセリフ(書体の端飾り)に補正してすっきりと見せるなど、これまでのデザイナーたちが培ってきた経験とノウハウを注ぎました。一方、当時に比べると現代では多版を重ねることができるようになったので、数字はより立体的になっています。繊細なインデックスに合わせて針はドーフィンにセンターラインを記し、視認性を上げました。

 手に取ったあとの気づきがあってこそ、愛着につながる。そうした思いから、クレドールは正規販売店として認定されたクレドールサロンや、クレドールショップでのみ購入が可能だ。特にブランド50周年を迎えた今年は、例年以上にその世界観の訴求に力を注ぐという。伊勢丹 新宿店のクレドールショップが、ブランドの世界観をより一層体現し体感できるクレドールサロン(3月27日より)として生まれ変わったこともその一環で、リニューアルに伴い4月4日~4月30日にかけてフェアを開催している。そこでは、本稿で紹介した50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデルがサンプル展示されるほか、対象商品を購入することでビスポークストラップ(※)かオリジナルノベルティが進呈される。クレドールの世界へ没入するのに、またとない機会となるだろう。

※対象モデル購入で、好きな素材・色から選べるセミオーダーストラップをプレゼント(納品までは6カ月程度の時間を要する)。 対象モデルについては売り場スタッフまで。ゴールドフェザーSSモデルの場合は、美錠も付属。

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